第1回「ハンムラビ法典を通して見る古代バビロニアの世界」
ルーヴル美術館の所蔵品を通じて、古代から近代までのそれぞれの時代を見る全4回の連続講座。2月のテーマは、「ルーヴル美術館を通して見る<古代>」、第1回はハンムラビ法典をキーワードに、中央大学名誉教授の中田先生に、古代バビロニア社会について、お話いただきました。

 「ハンムラビ法典」といえば、「目には目を、歯には歯を」のフレーズとともに、誰もが一度は世界史の授業で触れられたことがあることでしょう。しかし、その“原典”である石碑がルーヴル美術館に所蔵されていることは、あまり知られていないのではないでしょうか?中田先生はまず、古代バビロニアの石碑がルーヴルに所蔵されるに至った経緯からお話を始められ、少しずつ「ハンムラビ法典」の内容に踏み込んでいかれました。
 まず驚かされたのは、「目には目を、歯には歯を」といういかにもフェアーに聞こえる原則は、じつは、古代バビロニア社会の上層自由人にしか当てはまらないものだったということ。一般自由人の場合には「目には、銀約500グラム」、奴隷の場合には「目には、奴隷の価格の半額」が妥当とされていたのです。このように、現在の、人道的な考えからはなかなか理解できない点は多いものの、「ハンムラビ法典」の注目すべき点は、その被害者救済に対する考えかたにある、と先生はおっしゃいます。
 その例として、先生があげられたのが医者、そして大工の「報酬と責任」についてでした。「ハンムラビ法典」では、医者の施術への報酬とともに、もしも手術を通じて患者を傷つけた場合の責任のとり方までが記されているのです。例えば、手術で上層自由人を死に至らしめた場合、医者は自らの命をもって償わねばなりませんでした。また、大工の条項では、家の倒壊により家主が死ねば、その家を建てた大工は殺されなければならず、さらに自費で倒壊した家を建て直さねばなりませんでした。これらの例を、現在の医療過誤問題や、製造物責任に対する考え方と比較する先生のお話に、およそ4000年の昔に作られた「ハンムラビ法典」を、より身近に感じられた方の多かったのではないでしょうか。
 その名前の著名さとは裏腹に、意外と知られていない「ハンムラビ法典」。その実像を垣間見ることのできた講座の後は、ホワイエで、中田先生を囲んでのティータイムとなりました。古代より中近東世界で貴重な食物とされてきたナツメヤシを使った珍しいお菓子を楽しみながら、先生に質問をされる参加者の方々も多く見受けられました。