「〜サヴィニャック、その人物と作品の魅力〜」

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)で、「レイモン・サヴィニャック」展が幕を開けた翌日の6月7日、MMFでは展覧会と連携した講演会が開催されました。今回講師にお迎えしたのは、晩年のサヴィニャックとも親交があったパリ市立フォルネ図書館学芸員のティエリ・ドゥヴァンク氏。フランス、ポスター界の巨匠の素顔とその魅力をお話しいただきました。

サヴィニャックの写真を背景ににこやかな表情の講師、ドゥヴァンク氏

 ドゥヴァンク氏が登場すると、背後のスクリーンには在りし日のサヴィニャックの写真が映し出されました。まるで、今日、この会場にともにいるかのような、またドゥヴァンク氏を見守るような、そんな雰囲気が会場に広がります。

 「今回、gggで展覧会が開催されることを、私はとても嬉しく思っています。実は、今日はサヴィニャックのご子息から、皆さんへのメッセージを預かってきました」

 そう言いながら、ドゥヴァンク氏は、メッセージを読み上げてくれました。


 「僕は父サヴィニャックが長椅子で、食卓で、アトリエで、スパイラルリングの手帳にアイデアを描き留めている姿をよく思い出します。父は『ひとつのアイデアに対してはひとつの線だけを引くこと。もっとも大切なのはその1本の線なのだ』と常々話していました。こうした制作作業はとても厳しい戦いだったと思います。そうして生み出された作品の数々が、皆さんのもとへ長い旅をして届きました。皆さんをニッコリさせるために――。今日、皆さんと直接お会いできなかったことを、とても残念に思っています。でも、僕の心は皆さんとともにあります」


作品意図や作家の人柄についてもふれられる機会となった。
サヴィニャックを愛する幅広い層の参加者。

 メッセージを受け取った参加者の表情がふと緩みました。フランス、ポスター界の巨匠を、ぐっと身近に感じることができたからでしょう。こうしてサヴィニャックその人の、心の中をのぞき込むような、そんな時間が始まりました。

 「スクリーンに映し出されているサヴィニャックを見てください。とても精神的な深みのある笑顔でしょ。フランス人特有のエスプリが感じられる表情です」

 60年代初め、50歳頃に撮影されたというその写真は、優しい微笑みの中にも強い意志と知性、そしてわずかばかりのアイロニーを感じさせるものでした。それはまるで、単に可愛らしかったり、楽しかったりするだけでなく、強烈なメッセージを発信する彼の作品と重なるようです。

 「一見、彼のポスターは明るくて楽しげに見えます。でも、一方で彼はその作品で人々を挑発していたともいえるでしょう。サヴィニャックはとても控えめで温厚な性格でしたが、時に辛辣な言葉を発することもありました。他人同士が心を直接通わせるのはとても難しいことです。しかし彼は一貫して自分のスタイルを貫いた人です。庶民の出ではあったけれど、サヴィニャックは精神的に、そしてその振る舞いにおいて、まるで貴族のようでした」

 ドゥヴァンク氏は、こうして巨匠の“心のポートレート”とでもいうべき素顔を私たちに公開してくれました。こうしたサヴィニャックの一面を知った後で、スクリーンに映し出される作品を見ると、これまでとは異なるより深い理解が生まれるのが分かります。

 そして最後にドゥヴァンク氏はこんなメッセージを残してくれました。

 「震災によって、いま日本は、そして東京はとてもたいへんな時です。あの『モンサヴォン』の牝牛の優しい目、物思いにふけっているような表情を見ることで、少しでも皆さんの心にエモーショナルな何かが浮かべば――それだけで、僕たちは十分です」

 まるでサヴィニャックの言葉を代弁するかのような、ドゥヴァンク氏のメッセージに、会場は温かな雰囲気に包まれました。

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MMFでも全館でサヴィニャックを特集しています。
MMF webサイトでは2ヵ月にわたり「サヴィニャック特集」の連載記事を掲載しています。今回の講師ティエリ・ドゥヴァンク氏のインタビュー記事もアップ中です。