「トリュフォー没後30年に寄せて〜シャンパンを味わいながらフランス映画の魅力に酔う」

ヌーヴェルヴァーグを代表する映画監督フランソワ・トリュフォー(1932-1984)。今年2014年はその没後30年にあたる節目の年。10月には銀座・MMMにほど近い東京・角川シネマ有楽町で「フランソワ・トリュフォー映画祭」が開かれ、多くの映画ファンを魅了しました。そしてMMMでは、シャンパンを楽しみながらトリュフォー映画の魅力に迫る講座が開催されました。

 トリュフォーが亡くなったのは今から30年前の10月21日。その命日を目前に控えた金曜日の夜に開催された講座には、フランス映画を愛する多くの方が集いました。
 会場には、フランス伝統のパンづくりにこだわるPAULのパンのよい香り。そして、カンヌ映画祭の公式シャンパーニュとしても知られる「パイパー・エドシック」がグラスに注がれれば、いよいよ“トリュフォー・ナイト”の始まりです。

 「トリュフォーは私の人生を導いてくれた人。皆さんとトリュフォーを語るひとときを分かち合えることを嬉しく思います。トリュフォーに乾杯!」と、トリュフォーへの溢れる想いを語り始めたのは、今回の講師のひとり、坂本安美さん。「アンスティチュ・フランセ東京」の映画プログラムのご担当で、2014年にはカンヌ映画祭の審査員も務めた坂本さんですが、映画に魅せられたきっかけは、トリュフォーだったと話します。「フランスの映画人にとってもトリュフォーは“英雄”。ロックスターに憧れるように、トリュフォーに憧れたという人はとても多いんですよ」。フランス映画の最前線を知る坂本さんの言葉から、フランス、そして世界の映画界にとってのトリュフォーという存在の大きさをうかがい知ることができます。お話の合間合間に、会場のスクリーンにはトリュフォーの代表作『大人は判ってくれない』と『突然炎のごとく』の映像が映し出されます。モノクロの美しい映像、ジャン=ピエール・レオやジャンヌ・モローら名優の表情、手持ちカメラで撮影されたパリの街角、印象に残るサントラに……。


▲講師の坂本安美さん(左)、猫沢エミさん(右)

 「トリュフォーの作品は、“総合芸術”としての映画の魅力が詰まっています。そして、映画を通じて、共感と悲しみ、そして生きる喜びを感じることができるんです」。と語るのは、もうひとりの講師の猫沢エミさん。ミュージシャン、文筆家、映画解説者として活躍する猫沢さんは、音楽の面からも『大人は判ってくれない』の魅力に迫ります。「ジャン・コンスタンタンが作曲したこの映画のサントラは、コードがメジャーからマイナー、マイナーからまたメジャー……と転調を繰り返します。それは少年の心そのもののよう。観る人が少年の心に沿ってラストを迎えられるようにできているんです」。
 「トリュフォーは脚フェチ」「子どもを撮らせたら右に出るものはいない」……。トリュフォーをこよなく愛するおふたりのトークからは、トリュフォー映画のキーワードがポンポン飛び出し、終止、場を飽きさせません。最後に坂本さんからひとつの“宿題”が。「トリュフォーを見続けていると、異なる作品のなかに何度か出会う同じ台詞があります。どの作品か探してみてください」。その台詞とは以下のふたつ。

・『あなたを愛することは喜びでもあり、苦しみでもある』
・『あなたなしでは生きられないけれど、あなたとも生きられない』

 トリュフォーならではのこんな台詞を探して、もう一度映画を観てみよう、そんな気持ちにさせてくれる一夜でした。