「フィンランドを生きた画家
 ヘレン・シャルフベック〜女性としての顔とパリでの交友関係からその作品と人物に迫る〜」

東京藝術大学大学美術館で7月26日まで「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」展が開催されています。特集記事でも展覧会レポートをお伝えしていますが、今回のMMMレクチャーでは、本展の監修者である佐藤直樹氏を講師にお迎えして、画家シャルフベックの人物像とその作品世界に迫りました。

 シャルフベックはフィンランドでは国民的な女性画家のひとりですが、日本ではあまり知られていません。展覧会開催中ということもあり、この日集まった参加者の皆さんの表情からは、日本では“謎の画家”であるシャルフベックへ寄せる関心の高さがうかがえます。
「今日は、これからスライドでお見せする作品のリストと、シャルフベックの関連年表を資料としてお配りしました」。講師の佐藤さんは、馴染みの薄い画家であることを前提に、とても丁寧な資料を用意してくださいました。
 講座はシャルフベックの人生に併走するかのように、その生い立ちから始まりました。彼女は3歳のときに階段から落ちて不自由な体になってしまいます。
「でも、フィンランドの学校教育のシステムはすばらしいんです。シャルフベックのように学校に通えない子どもたちには、家庭教師が派遣される仕組みになっていました。現在の日本でもこうした教育システムは完璧ではないのに、19世紀のフィンランドですでに行われていたんですね」と佐藤さん。こうした時代背景などの説明も折り混ぜた巧みな話術で、瞬く間に参加者の心をつかみます。

 また佐藤さんは、シャルフベックの人物像や彼女の心情がよくわかるエピソードをいくつも披露してくださいました。たとえばシャルフベックが、パリの画塾でともに過ごした親友ヘレナを描いた作品では、「シャルフベックは自分のことをヘレンではなくヘレナと呼んでいました。親友と同じ名前でいたいという女の子同士のほほえましい友情を感じますね」。また、今回の展覧会の見どころのひとつであるシャルフベックの晩年の自画像群では、「まるで“お化け”のように、理想化することなく年老いた自分を描いています。これは女性としてはとても勇気がいること。強い精神力がないとできないことですね」と解説。こうしたお話のお陰で、レクチャーも後半になると、スクリーンに映し出される作品たちは、ときに力強く、ときに切なく、見る者に語りかけるようになってきました。参加者の皆さんは、佐藤さんに誘われながら、作品のみならず、シャルフベックというひとりの女性画家に強く魅了された様子。このレクチャーを思い出しながら、展覧会を訪れれば、シャルフベックが作品に込めた思いをよりリアルに感じ取れることでしょう。

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