今年の秋はウィーンが熱い!A「クラーナハ展―500年後の誘惑」

2016年10月15日から2017年1月15日まで、上野の国立西洋美術館で開催中の「クラーナハ展―500年後の誘惑」。日本初となるクラーナハの大回顧展として、注目を集めています。500年以上も前のクラーナハの作品が、なぜこうまで私たちの視線を釘づけにするのか――。本展担当研究員の新藤淳氏を講師にお迎えして、その秘密をお話しいただきました。

「クラーナハ展―500年後の誘惑」の開幕から、1ヵ月ほどがたったこの日、MMMレクチャーの会場は、満席になるほど多くの方々にお越しいただきました。この盛況ぶりからも、クラーナハ展に寄せる皆さんの関心の高さがうかがえます。
 登壇されたのは、本展担当研究員の新藤淳氏。「展覧会の見どころはもちろん、ここでしか聞けない話も用意してきました」との言葉に期待が高まります。

 まず、最初に説明してくださったのは、「クラーナハ」という名前の表記のこと。これまで、日本では「クラナハ」表記が一般的だったものの、20年ほど前から国立西洋美術館では、現地の発音にあわせて表記を変更してきたそうです。今回の展覧会で、一気に「クラーナハ」への認知度も高まることでしょう。
 クラーナハの足跡は、ヨーロッパが中世から近世へと移る契機となった「宗教改革」と切っても切れない関係にあります。宗教改革とは、16世紀、カトリック教会の腐敗に声をあげた、ルターを旗頭とするプロテスタント勢力の革新運動です。教科書で、ルターの肖像を見た記憶がある方も多いと思います。
 「そのルターの肖像を描いたのがクラーナハです。いまでいう選挙ポスターのようなものですね」
 新藤さんは、複雑な宗教改革とクラーナハとの関係を、日本人にもじつに分かりやすく解説してくださいます。その熱のこもった説明に、参加者の皆さんもどんどん引き込まれていきました。
 講座終盤は、クラーナハがなぜここまで、人々を誘惑するのか――という、本展の核心へと迫っていきました。《ヴィーナスとキューピッド》、《アダムとイヴ》、そして本展の目玉作品でもある《ルクレツィア》などの作品を観ながら、その謎を解き明かしてくださいます。

「じつはクラーナハは、絵画において伝統的に裸体で表現される人物を描くときも、全裸では描かず、薄いヴェールをまとわせています。クラーナハは、隔てられていながら誘い込み、またそれなのに拒絶する――という罠を仕掛けているのです」
 そう言われて改めて観てみると、たしかにクラーナハの描く裸体画には、ほとんどすべての女性が体の一部分だけにヴェールをまとっていました。それが、さらにエロティシズムを増す絶大な効果をあげていることが分かります。絵のなかで、永遠の駆け引きを仕掛けてくる女性たち。これこそ、クラーナハの絵画が、いまもって私たちを誘惑する秘密でした。
 本展最大の秘密を、鮮やかに解き明かしてくださった新藤さん。その秘密の鍵を持って、明日にでも展覧会に足を運びたくなるレクチャーでした。

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