―クロマニョン人のアートに囲まれた暮らし―「ラスコーの壁画が現代の私たちに伝えるメッセージ」

東京・上野の国立科学博物館で開催されていた「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」展。今から2万年前、なぜこの洞窟壁画が描かれたのか――、本展の学術協力者である五十嵐ジャンヌさんを講師にお招きし、謎に包まれた洞窟壁画と、クロマニョン人の豊かな創造性についてお話しいただきました。

 フランス南西部のヴェゼール渓谷にある洞窟に、クロマニョン人によって鮮やかな動物たちの壁画が描かれたのは、今から2万年前のことです。このラスコーの洞窟内にある壁画は1940年、この地で遊んでいた少年たちによって発見されました。現在はユネスコの世界遺産にも登録され、内部は非公開。今回の展覧会は、この洞窟壁画の魅力を伝えるべく、開催されました。本展覧会の学術協力を行った講師の五十嵐さんは、今から20年前に特別許可を得て、オリジナルを見学したという貴重な経験をお持ちです。謎多き洞窟壁画とあって、会場の皆さんの期待も高まります。
 講座冒頭、この壁画を描いたクロマニョン人について説明してくださいました。

「今から20万年前にアフリカに誕生した人類、ホモ・サピエンス(現生人類)の中から、ヨーロッパに出ていった人たちをクロマニョン人と言います。1868年にクロマニョン人の骨が発掘されて、その名が知れ渡るようになりました。約4万〜1万4500万年前の後期旧石器時代に、クロマニョン人はヨーロッパに住んでいたのです」  そして会場のスクリーンに実際の洞窟の写真を映しながら、内部の様子を見ていくことになりました。そもそも洞窟は、「牡牛の広間」「軸状ギャラリー」「通路」「後陣」「井戸状の空間」「身廊」「ネコ科の部屋」と7つの空間に分かれており、空間によってテーマや描き方が異なるため、それぞれ違う目的で描かれているそうです。
 中でも印象深かったのは、高いところの壁画を描くために、丸太を持ち込んで梯子のように使用したり、足場を作ったり、ロープを使って高い場所を行き来していたりしたこと。さらにランプを使用していたということにも驚きました。
「『身廊』の空間では、26個ものランプが出土しており、絵を描くためや鑑賞するために床にランプを置いていたことが分かっています。また、『井戸状の空間』では手持ちのランプが発見されているんです」
 実際に“ホンモノ”を見た五十嵐さんの熱い解説に、参加者の皆さんもすっかり魅了された様子でした。

 最後に、今回の講座テーマである、ラスコーの壁画が現代の私たちに伝えるメッセージについて語ってくださいました。
 「情報共有する場のひとつとして洞窟を用い、こうした美術表現を通して、集団グループ、社会は志向を分かち合い、受け継いでいきました。ホモ・サピエンスはほかの動物やヒト科よりも、積極的に美術を用いて、社会の結束や強化を図ったといえるでしょう。そして、忘れてはいけないのは、洞窟に描かれて後世に残されたからこそ、私たちが当時の生活を知ることができるということ。この何万年も前の壁画を通し、人にとって美術が不可欠な要素だと考え直すきっかけとなったらいいかなと思います」
 悠久の時を超え、現代の私たちに多くのメッセージを投げかけてくれるラスコーの洞窟壁画。改めて先人たちの知恵や技術力の素晴らしさを実感する貴重な機会となりました。

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