『大型客船フランス号』


『大型客船フランス号』 PAQUEBOT FRANCE
序文:フィリップ・スタルク
23.5×28.5cm/240ページ
フランス語/刊行2011年
本体記載価格/39ユーロ

▲フランス号の内部構造が分かる断面図も収録
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伝説の豪華客船をまるごと大特集の一冊!

“夢の豪華客船”といえば、日本人なら「タイタニック号」あるいは「ノルマンディー号」の名を挙げるかもしれません。そして、50代以上のフランス人であれば、誰もが郷愁とともにその華麗な姿を思い浮かべるのが「Paquebot France(フランス号)」でしょう。1960年5月11日、シャルル・ド・ゴール大統領も見守る中お披露目され、10万人以上の観客を驚嘆させた大型客船です。

今月、MMFのインフォメーション・センターからご紹介するのは、フランス号の就航50周年を記念して、パリの海洋博物館で開催中の特別展「大型客船フランス号」(10月23日(日)まで)の公式カタログです。


フランス号の建造計画が始まったのは、1952年のことでした。のちに「栄光の30年(1945-1975年)」と呼ばれる高度経済成長時代のただ中にあったフランスは、第二次世界大戦中に転覆したノルマンディー号に代わる、国家の栄光のシンボルとしての大型客船の建造を急いだのです。そして完成したのが、長さ315メートル、総トン数6万6,328トン、速力31ノットを誇るフランス号。1962年1月に就航したこの客船は、ノルマンディーのル・アーヴルとニューヨークを5日間で結び、大西洋定期客船の花形となりました。

本書を紐解くと、フランス号は、造船技術の集大成であるとともに、当時のフランス文化の粋を集めたひとつの芸術品でもあったことがよく分かります。船内の装飾にはなんと100名以上のデザイナーが携わったといい、椅子やテーブルといった調度類のほか、タピスリーといった装飾品などに当時流行のアール・デコ様式が採用されています。フランス号がいかにモダンで斬新であったかは、巻頭に収録された、現代フランスを代表するデザイナー、フィリップ・スタルク氏の序文からもうかがえます。

乗客2,000名に対して乗組員1,000名という手厚いサービスが売りのフランス号でしたが、中でもフランス客船らしいこだわりは「食」にありました。厨房付きのスタッフは総勢90名を数えました(そのうち、シェフ15名、パティシエ13名、パン職人8名)。カタログには、2,000名もの乗客に温かい食事を出す際の苦労話なども収録されています。

フランスの威信をかけて運航されたフランス号でしたが、1960年代といえばすでに飛行機の時代の始まりでした。旅客輸送の主力は、客船から飛行機へと急速に移行していったのです。ジェット旅客機に乗客を奪われたフランス号は、1962年の就航からわずか12年後の1974年に運休。その5年後、フランスの栄光の象徴であった船体はノルウェーへと売却されていきました。

フランス式「アール・ド・ヴィーヴル(暮らしの芸術)」の見本ともいえる豪華客船「フランス号」。本書はその世界を堪能できる、ユニークな一冊です。