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イヴ・サンローラン美術館マダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。バックナンバーを読む
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小さな展示ケースにきらめくのは、「心」と呼ばれるメゾンを象徴する宝石。コレクションの際には、サンローランが選んだモデルが身につけてランウェイを歩いたという一品です。

長方形の大きなスタジオは、クリエーションとあらゆる変容の舞台です。その明るさとシンプルさに、わたくしは驚きを禁じ得ませんでした。ひとつの壁全体を占める大きな鏡の前では、縫製前の布をモデルにまとわせ、それを厳しい目でサンローランがチェックするという光景が繰り広げられました。これは、ランウェイでショーをする前に、どんな服になるのかおおよその見当をつけるためです。サンローランの仕事机は、架台の上に板を載せただけのもので、その上に彼のお気に入りの品々(鉛筆、サンプルなど)が在りし日のままに置かれています。椅子の上には愛用の白い仕事着が掛けられていて、サンローランの存在を身近に感じさせます。本棚には着想源となったたくさんの本が置かれています。

階下に戻ると、サンローランのメゾンの内幕を紹介する6つのビデオが上映されており、制作からショーまで、そして雑誌記事での紹介から販売まで、ひとつの作品をめぐって展開する一連の段階をたどることができます。
1階の廊下の両側には、イミテーションのきれいな宝飾品やアクセサリー、サンローランのデッサンが展示されており、彼の舞台装飾や舞台衣装への情熱も知ることができます。そのキャリアを通じて、サンローランは舞台衣装に関わり続け、とりわけローラン・プティ(1924-2011)が振付けたキャバレーのショー「シャンパーニュ・ロゼ」でジジ・ジャンメールが着た衣装を手掛けたことで知られています。小さな廊下の奥までいくと、最後に1988年春夏の素晴らしい「花嫁衣装」があります。これはこのミュゼにおける“ショー”のクライマックスといえるような作品。白いチュールのドレープを寄せた丈の短いドレスで、ジョルジュ・ブラックの絵画を思わせるようなコットンの鳩のアップリケで飾られています。

最後のセクションには、マティスやピカソといったサンローランのお気に入りのアーティストたちにオマージュを捧げたコレクションが展示されています。シルクオーガンザに刺繍を施した1988年春夏のナイトガウン「ヒマワリ」はヴァン・ゴッホを思わせる作品。1965年秋冬の「モンドリアン・ドレス」は、直角に交差したラインが、長方形の色彩(黄色、赤、青)を形作っており、驚くべき成功を収めました。サンローランが彼の仕事と、周囲の人々に別れを告げる場面を収めたビデオは感動的です。外に出る前に、かつてオートクチュールのブティックのサロンだった大サロンで、これまでのショーの総集編を見るのをお忘れなく。とりわけ、ポンピドー・センターで行われた最後のショーは感嘆すべきもので、サンローランの40年の歴史におけるもっとも美しいドレスの数々を甦らせています。

時代と調和し、オートクチュールにストリート・ファッションを取り入れる一方で、ストリート・ファッションに「シック」をもたらしたイヴ・サンローランは、現代的でエレガントでダイナミックな女性のワードローブをつくりだしました。1983年にはニューヨークのメトロポリタン美術館、そして、北京、パリ、モスクワ、東京などで個展が開かれましたが、生前にこれほど展覧会が開かれたファッションデザイナーはほかにいないでしょう。

ピエール・ベルジェの希望によってつくられた、この親密な雰囲気のパリの美術館と、マラケシュにオープンしたばかりの大胆なまでに現代的なふたつ目の美術館は、イヴ・サンローランの遺産を次世代に引き継ぐという目的を持っています。続く世代の人々がそこからインスピレーションを得られるよう、未来に向かって開かれているのです。

友情を込めて。

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Update : 2018.2.1

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