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アンジェ城とジャン・リュルサ美術館マダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。 バックナンバーを読む
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広大なギャラリーに一歩足を踏み入れた来館者は、仄暗い空間の中で、ダークブルーを背景に浮かび上がる、ひとつの作品の美しさに目を奪われるに違いありません。それが、《黙示録のタピスリー》。新約聖書の最後の福音書、聖ヨハネの啓示を物語る「黙示録」の世界が表された傑作です。

フランス国王シャルル5世(1337-1380)の弟アンジュー公ルイ1世が、ジャン・ド・ブルージュにデザインと下絵を依頼したタピスリーで、1373年から1382年にかけて、パリのニコラ・バタイユの工房で製作されました。その出来栄えの見事なことといったら!なんとこれは、「裏面のない」タピスリー。つまり、全ての玉留めが折り目の中に隠されているのです。裏も表と同じように美しい──なんと素晴らしい手仕事でしょうか。もともとは、長さ23mにもおよぶ6点のタピスリーから成り、総長140m、高さ5m、面積にして約850uという大作でした。実に豪華な色づかいで(とりわけ隠れた部分の豪華さといったら……)、上下二段に、赤地と青地の背景が交互に並ぶ構成で、14の場面が織られています。
この格調高い作品が飾られたのは、たとえば1400年に執り行われたアンジュー公ルイ2世(1377-1417)とヨランド・ダラゴン(1380-1442頃)の結婚式など、特別な機会だけのことでした。そして、アンジュー公爵家の最後の当主であるルネ王が、このタピスリーをアンジェ大聖堂に遺贈すると、大聖堂での典礼の際に展示されるようになります。ところが、18世紀、タピスリーは小さく分割されて売りに出され、散逸。その後、1848年に発見されて、再び評価され、修復されたのです。

現在まで伝わるのは、長さおよそ100m、高さ4m50cmの部分ですが、その類まれなる技術を存分に堪能することができます。タピスリーには、聖ヨハネの福音書の場面が描かれているだけでなく、14世紀の政治や社会生活に関する数々の情報が含まれています。14世紀後半は、フランスとイギリスの間で勃発した百年戦争(1337-1453)が大きな痕跡をとどめた時代ですが、タピスリーには敵であるイギリス人兵士が装備や武器を身につけている様子も描かれています。また、飢饉やペストの流行、善と悪との戦いが描かれていますが、同時にキリストと教会の勝利を表す天上のエルサレムという図像の中に、希望のメッセージも表されています。

場面は左から右へ、上から下へと順に読んでいきます。それぞれの左端には、ゴシック様式の天蓋の下に聖ヨハネを思わせる大きな人物が描かれており、見るものを深い思索の世界へと誘っています。
ひとつ目のタピスリーには、7つの場面が描かれています。それぞれの場面が、黙示録の4人の騎士によって告げられた神の懲罰に対応しています。第12場面(下の枠)「馬と死」では、剣を手に、死を象徴する蒼白の馬にまたがる骸骨が描かれています。ふたつ目のタピスリーでは、7つのラッパが自然災害を告げています。第21場面では、恐ろしい難破に遭難した船乗りたちを目にしてたじろいだ聖ヨハネが、赤いマントの裏で涙を拭うシーンが真に迫った表現で描かれています。続く第23場面は「不幸の鷲」。第27場面では、神の慈悲に対する希望の象徴として、燃えるように輝く色彩の虹を冠した「本を持つ天使」が描かれています。

3つ目は、キリストが遣わした証人たちが地上へやってくる様子が表されています。そのひとつが「ドラゴンと戦う聖ミカエル」で、十字架のかたちの槍を手にした聖ミカエルが、悪魔の化身を相手にしています(第26場面、下)。4つ目のタピスリーは、人間は罪を犯せば罰されるということを想起させる一幅です。第50場面は、第二天使が堕落した町バビロンの崩落を告げるシーンです。5つ目には、とりわけよく知られた場面のひとつ「大淫婦バビロン」(第64場面)があります。鏡を前に長い髪を梳かす姿は彼女の汚れた魂を表しており、悪魔に占拠されたバビロニアの陥落が近いことを暗示しているのです。6つ目のタピスリーには、キリストと教会の勝利を象徴する「天上のエルサレム」が描かれています。

Update : 2021.7.1

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