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アンジェ城とジャン・リュルサ美術館マダムの連載の一部(10館)は書籍でもお楽しみいただけます。バックナンバーを読む
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1938年、この《黙示録のタピスリー》を目にして衝撃を受けたのが、画家でありタピスリー作家でもあったジャン・リュルサ(1892-1966)でした。リュルサは、その後、《黙示録のタピスリー》に大きな影響を受けて制作することとなります。第二次世界大戦後、リュルサは、16世紀からタピスリー職工の仕事の質の高さで知られていたオービュッソンのアトリエの協力を得て、タピスリーを復興させることを決意。そして、1959年から1965年にかけて、傑作《世界の歌》を制作しました。1968年以降、《世界の歌》が展示されているのが、聖ヨハネ病院。12世紀の建築群で、1874年に考古学博物館へと改装され、その後1900年と1988年にも改修工事が行われました。

白い壁に囲まれた広い展示室は、すらりと伸びたヴォールトが印象的で、そこに黒地に鮮やかな色で織られたジャン・リュルサのモニュメンタルなタピスリーが浮かび上がります。10点のタピスリーからなる幅100mの《世界の歌》は、ふたつの大戦に翻弄されたひとりの芸術家によるマニフェストと言えましょう。最初の4点を貫くテーマは、原子爆弾の危険性と原爆による破壊。地球にとって真の脅威である爆弾が鷲によって投下される《大きな脅威》から、人間の常軌を逸した行動の結末が骸骨によって表現された《広島の人間》、戦争の恐ろしさを喚起する《納骨所》を経て、最終的には、黒い背景に小さな白い点がちりばめられた、つまり、原子の塵が広がる虚無の世界《すべての終わり》へと至るのです。次の6点は、生命、希望、平和のメッセージを伝えています。《平和における栄光の人間》と《水と火》では、宇宙において調和の取れた場所を再び見出す人類の姿、《宇宙の征服》では、人類のテクノロジーが宇宙で成し遂げた快挙が表されています。そして、《詩》では、芸術家が《黙示録のタピスリー》からインスピレーションを得ている場面が描かれています。アーチに囲まれた大きな人物は「いて座」で、鎖で結ばれた黄道十二宮を司る詩人を表しています。そして、最後のタピスリー《神聖な装飾品》は、リュルサの死後完成されたもので、その意味は今なお謎のままです。しかし、黒地に描かれたさまざまなフォルムやコントラストを成す色彩は、わたくしたちの心を動かさずにいられません。

《世界の歌》という作品は、ジャン・リュルサがこの世に残した、希望と平和の壮大なメッセージです。このタピスリーは、実は1998年から1999年にかけて、広島と群馬の美術館でも展示されたことがあるので、ご覧になった方もおられるかもしれませんね。

《世界の歌》は、ジャン・リュルサの遺志を受け、《黙示録のタピスリー》と同じ町に展示されています。これらふたつの傑作タピスリーを、それぞれに素晴らしい場所で見ることのできるという点において、アンジェの町は世界に冠たる文化遺産の町となっているのです。ジャン・リュルサ美術館の隣には、1986年創立の「現代タピスリー美術館」もあります。タピスリーに加え、世界各国の現代のテキスタイルをご覧いただけますので、お見逃しになりませんように。

友情を込めて。

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Update : 2021.7.1

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