パリ東部ヴァンセンヌの森の近く、
ポルト・ドレ駅を出ると目に飛び込んでくるエキゾチックな建物。
昨年10月にリニューアルオープンしたばかりの「移民歴史館」です。
この威風堂々とした建物は、1931年の国際植民地博覧会の際に
造られたもので、歴史建造物にも指定されています。
1960年、「アフリカ・オセアニア美術館」として生まれ、
市民に親しまれてきたこの美術館は、
ケ・ブランリ美術館
の
オープンにともない、同館のコレクションがケ・ブランリに移されて閉館。
「移民歴史館」として再スタートを切ることになりました。
今月はフランスの文化、歴史に大きな役割を果たしてきた、
「移民」をテーマにしたこの博物館をご紹介します。
常設展はおもに「フランスに移民してきた人の証言や日用品など移民たちの声を伝えるもの」、「移民、国境などをテーマにした現代美術作品」、「ウジェーヌ・アジェ(Eugène Atget)やロバート・キャパ(Robert Capa)の写真や新聞のカリカチュアなど時代の証言でもある文章・写真・ドキュメンタリー映画など」で構成されています。
▲展示室では移民の歴史をたどることができる。
▲現代作家の写真作品。
▲ベッドをモチーフにした現代作家の作品も。
「フランスで働く夫のもとに合流する際、フランスは寒いから風邪をひかないようにと義母が持たせてくれた」というチュニジアの伝統的な織物や商売道具一式など、名もない人々の持ち物が証言とともに展示され、移民のリアリティーを伝えています。なかにはキュリー夫人(Marie Curie)が自ら訂正を書き込んだ博士論文の冊子といった貴重な資料も目にすることができます。
また、有名人の移民年表には、シャガール(Marc Chagall)、モディリアーニ(Amedeo Modigliani)といったエコール・ド・パリの画家はもちろん、ベケット(Samuel Beckett)、イオネスコ(Eugène Ionesco)などの文学者、ショパン(Frédéric François Chopin)、クセナキス(Iannis Xenakis)、ウィリアム・クリスティー(William Christie)といった音楽家など、錚々たる面々が名を連ねます。
日本人ではデザイナーの高田賢三氏(Kenzo Takada)の名前も見つけることができました。
また地下には水族館があります。1931年の植民地博覧会の際に、植民地の魚を展示するためにつくられたものです。アジア、南米、アフリカ各地の魚を見ることができます。
「移民の歴史」の補足範囲は広く、今後も多様なアプローチを必要とするテーマでしょう。これから博物館が資料を充実させ、対話の場として機能していくためには、難しい舵取りが必要な場面も多いに違いありません。ちなみに「移民の息子」である現フランス大統領は、オープニングには姿を見せませんでした。今後、この新しいタイプの野心的な博物館がどのように発展していくか目が離せません。
▲キュリー夫人の博士論文。
阿部明日香(Asuka Abe/文・写真)
著者プロフィール:
東京大学およびパリ第一(パンテオン・ソルボンヌ)大学博士課程。
専門はフランス近代美術、特にその「受容」について研究中。
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URL
http://www.histoire-immigration.fr/
1820 年代から現在までのフランスの移民の歴史を映像と音声で伝えるコンテンツをはじめ、展覧会の詳細など、博物館からのメッセージが満載のwebサイトです。
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所在地
Palais de la Porte Dorée 293, avenue Daumesnil 75012 Paris
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Tel
01 53 59 58 60
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E-mail
info@histoire-immigration.fr
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開館時間
10:00-17:30
※土曜・日曜は10:00-19:00
(いずれも入館は閉館時間の45分前まで)
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休館日
月曜日、1/1、3/24、5/1、5/12、7/14
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入館料
一般:3ユーロ
割引料金:2ユーロ
※18歳以下、障害者などは無料
※毎月第一日曜日は無料
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