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大聖堂の向かい、サン・コランタン広場に面したところに建つ建物がカンペール美術館です。イタリアの宮殿を思わせるとても優雅なファサードの建物ですので、見逃されることはないかと思います。1867年に建てられたこの美術館は、ブルターニュでもっとも古い一族出身のジャン=マリー・ド・シルギー(1785-1864)が、その膨大な美術コレクションを遺贈したことから創設されたミュゼです。15世紀から近代までの絵画1200点、デッサン2000点からなるコレクションで、半分はスペイン、イタリア、フランドル、オランダ絵画、残りの半分がフランス絵画に充てられています。
▲カンペール美術館。
©A. de Montalembert
       
▲ウジェーヌ・ブーダン
《カンペールの港の風景》1857年
油彩, 40 x 61cm
©musée des beaux-arts, Quimper
とりわけわたくしの目を惹いたのは、ウジェーヌ・ブーダン(1824-1898)《カンペールの港の風景》です。移ろい行く空模様、民族衣装を身にまとったブルターニュの人々の日常──印象派の到来を告げる一枚です。
         
1867年建設当初の美術館はとても小さかったので、のちに改修されることになりました。手がけたのはJ.P.フィリッポンという、オルセー美術館やルーベ工芸美術館、ラ・ピシーヌの改装でも知られた建築家です。フィリッポンは、古典的な雰囲気のファサードはそのままに、建物の入り口から裏手までを貫く一本の通路を作りました。建物の裏手は一面ガラス張りという現代風の造りになっているので、そこから館内に自然光が入り、館内からは外の通りや花崗岩でできた家々を眺められるようになりました。ミュゼの内部に町を取り込み、町からはミュゼの作品を鑑賞できる──なんとすばらしい造りなのでしょうか。
▲美術館のホール。
©A.de Montalembert
         
▲レモルダンの展示室。
©musée des beaux-arts, Quimper
▲カンペール、レペホテル。
©A.de Montalembert
また、美術館の中央にあるルモルダン展示室も特筆すべき場所のひとつと申せましょう。館内のすべての通路が集まるこの部屋は、人々の交流の場としての役割をもっているのです。ここに展示されている絵画は、ジャン=ジュリアン・ルモルダン(1878-1968)が1905年から1907年にかけて制作したものです。ブルターニュのビグダン地方の人々の伝統的な生活を描いた連作で、もともとはこの町の「レペホテル」の食堂を飾るために描かれたものでしたが、ホテルが売りに出された折にカンペール美術館によって買い取られ、往時のままのレイアウトで飾られることになったのでした。ルモルダンは、《風のなかで》や《逆風のなかで》といった作品を通じて、変わりやすくも荒々しい自然、そして自然と向き合って生きる人間の闘いを見事に描き出しました。
         
ジャン=マリー・ド・シルギーのコレクションにはブルターニュゆかりの絵画はありませんでしたが、1870年以降、国から作品を委託されるようになり、また、購入も始められたので、カンペール美術館は今や、フランス随一のブルターニュ絵画のコレクションを誇るまでになりました。このコレクションを前に、わたくしはブルターニュ地方の景色のみならず、そこに宿る伝説や伝統にまで想いを馳せずにはいられませんでした。たとえば、アルフレッド・ギユー(1844-1926)の《コンカルノーからサン=タンヌ・ド・フェナンへのパルドン祭の到着》(1887)をご覧になってみてください。描かれているのは、ある聖人、ここでは聖アンナへの信仰心を示すパルドン祭です。聖アンナの像を囲んだ白衣の若い女性たちが深い思索に身を捧げる様子、そして伝統的な衣装を身にまとい、信仰の幟を掲げる人々の尊厳に満ちた姿──その世界は、きっと皆さまの琴線にも触れることでしょう。

アドルフ・ルルー(1812-1891)の《ブルターニュのある結婚式》(1863)は、伝統的な農村の結婚式の喜びに満ちた光景を捉えた一枚。ブルターニュ地方の風笛ビニウーを演奏する音楽家や、民族衣装を着て伝統的な踊りに興じる農民たちの姿も描かれています。ブルターニュの伝統的な姿を捉えたこれらの絵画は、このミュゼの見どころのひとつと申せましょう。そして、よく知られているのが、このミュゼが誇るもうひとつのコレクション「ポンタヴェン派」の絵画です。
▲アルフレッド・ギユー
《コンカルノーからサン=タンヌ・ド・フェナンへのパルドン祭の到着》1887年
油彩, 281 x 220 cm
オルセー美術館からの委託品
©musée des beaux-arts, Quimper
         
 
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