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  ブールデル美術館とブールデル庭園美術館  
 
▲ブールデルのアトリエ。
©A.de Montalembert
ミュゼを訪れる人々を迎えるのは、赤レンガの瀟洒な建物。ブールデルが心から愛した郷里モントーバン産のレンガを用いて建てられたものです。1930年代様式のこの建物は、現代的な建物の立ち並ぶ通りのなかでは、少し古めかしく意外な印象もありますが、小さな庭が通りを望む独自の構造がとても魅力的。ミュゼの外の通りを行く人々が、アーケードのギャラリーに並ぶブロンズ彫刻を鑑賞できるなんて!もちろん、そこには、ブールデルの名を世に知らしめたかの有名な≪弓を引くヘラクレス≫(1909)も。何と緊迫感に満ちたポーズ、何という力強さ……わたくしはその力に、ただただ圧倒されるばかりでした。
   
また、シャンゼリゼ劇場のために制作された浅浮彫りのブロンズも、ここでならじっくりとご覧いただけますのでお見逃しなく。劇場のファサードの高いところにあっては、せっかくの傑作もよく見えませんものね。

「グランドホール」と呼ばれる大きな展示室は、大作の石膏原型のために1961年の拡張工事の際に作られた部屋。≪弓を引くヘラクレス≫(1909)や、アルゼンチン独立の英雄を讃えてブエノス・アイレスに設置された≪アルヴェアール将軍騎馬像≫(1913-1923)、政府からの注文作である≪フランス≫(1925)などの石膏原型をご覧になれば、誰しもその壮大なスケールに圧倒されるに違いありません。
▲パリ、ブールデル博物館のアーケードのギャラリー。
©Musée Bourdelle / André Morin
▲石膏原型の並ぶ「グランドホール」。
©Musée Bourdelle / André Morin
お次は、ブールデルのアパルトマンへ参りましょう。寝椅子や宗教上の品々、絵画、そしてランス大聖堂のダヴィッドのムラージュ(複製彫刻)……ブールデルが大切にしていた品のひとつひとつが、ブールデル在りし日のままに置かれた部屋。そこには、親密な空気が漂っていました。
そしてアパルトマンを出たわたくしは、敷地の中央にあるブールデルのアトリエを訪ねました。木炭ストーブや木材から漂ってくるそこはかとない香り……ああ、ここでは匂いまでもが昔日のままなのですね。あたりを見回すと樫の木でできた田舎風の長テーブルと使い古された長椅子があり、小さなブロンズ像が展示されていました。そして、何よりも強くわたくしの心を捉えたのは、≪瀕死のケンタウロス≫(1914)でした。その深い悲しみといったら──ひとつひとつの作品には、彫刻家の魂が映し出されているのですね。
   
お隣には、絵画も鑑賞できるカリエールのアトリエがあります。アトリエ訪問を終えられたら、ふたつのアトリエが面する小さなお庭の散策へ参りましょう。マロニエの木陰でブロンズ作品に囲まれながら、ブールデルさながらうたた寝をきめこんだり、ブールデル芸術の秘密を探るにはぴったりの、ひっそりとした心地よいお庭です。

1992年、ブールデルの娘が父親のコレクションをパリ市へ寄贈したことから、ブールデル美術館は増築されることとなりました。設計を手がけたのは、かの有名なフランス人建築家クリスチャン・ド・ポルザンパルクです。この増築のおかげで、彫刻家ブールデルにとって記念碑的な2作品の習作と一部を、同時に展示できるようになりました。それが、モントーバンで作られたブールデルの初作品≪1870〜71年の戦争におけるタルン・エ・ガロンヌ県兵士記念碑≫、そして遺作となった≪アダム・ミキェヴィッチ像≫(1909-1924)です。愛国的な作品を残したポーランドの作家の像である後者の完成作は現在、パリのアルベール1世大通りにあります。
▲ポルザンパルク翼に展示された≪フランス≫。
©Musée Bourdelle / André Morin
▲パリ、ブールデル博物館の中庭。
©A.de Montalembert
人々を圧倒させるその壮大なスケールだけではない、ブールデルの芸術のより深遠な魅力に触れることのできる空間。それがポルザンパルクの作ったミュゼでした。グレーの壁をはじめとする、絶妙な配色や照明の効果によって、彫刻作品の力強さがいっそう際立てられているのです。
 
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