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  ブールデル美術館とブールデル庭園美術館  
 
▲エングルヴィルのブールデル庭園美術館。奥には≪弓を引くヘラクレス≫が。
©A.de Montalembert
この彫刻家に敬意を表しているのはパリのブールデル美術館だけではありません。セーヌ・エ・マルヌ県、フォンテーヌブローの森の近くにあるわたくしの両親の別荘からさほど離れていないところにエグルヴィルという村があります。風格あふれる市場のある(市場の建物を修復したのは、代々建築家であるわたくしの友人です)この素敵な村で、わたくしは「ブールデル庭園美術館」というミュゼに出会いました。最近になって一般に公開されたミュゼで、5月から10月のみ開館しています。

この屋外美術館には、ブールデルの素晴らしいブロンズ像57体が展示されており、そのほとんどが大作です。すべてオリジナルのブロンズ像で、ブールデルの娘ロディアと彼の夫ミシェル・デュフェが所有していたこの場所のために作られたものでした。
   
彼らは心酔するブールデルの芸術を世に知らしめることに人生を捧げました。そして、<フランス式>らしくシンメトリーな造りのなかに、アールデコ華やかなりし当時の好みを映したこの庭園を設計し、ひとつひとつの彫刻がいちばん美しくみえる場所を選んで、作品を展示していったのです。花々が咲き乱れた宝石箱のように美しい庭で、それぞれの域で自然と溶け込んでゆくブロンズ像──こうして、ひとりの芸術家の作品を異なるかたちで鑑賞するとは、なんと素晴らしいことなのでしょうか。
▲エングルヴィル村の市場。
©A.de Montalembert
▲緑溢れるブールデル庭園美術館。
©A.de Montalembert
フォンテーヌブローの近くまで回り道をした後は、ふたたびパリのブールデル美術館に戻ることにいたしましょう。ここでは、ブールデルとギリシア美術、そしてイギリス人彫刻家ヘンリー・ムーア(1898-1986)とヘレニズム神話の繋がりをめぐる「ヘンリー・ムーアと神話」という興味深い特別展が開催されています。

この特別展は、美術教育の普及のために創設されたヘンリー・ムーア財団との協力で企画されました。1950年代から1980年代までの彫刻約60点のほか、ふたつの文学作品の挿絵として描かれたデッサンやリトグラフなどのヘンリー・ムーアの作品が紹介されています。その文学作品とは、ホメロスの≪オデュッセイア≫から着想を得たエドワード・サクヴィル=ウェストの≪The Rescue≫と、アイスキュロスの≪縛られたプロメテウス≫から着想を得たヨハン・ヴォルフガング・ゲーテの≪プロメテウス≫です。
   
ヘンリー・ムーアのブロンズ像は、「グランドホール」の雰囲気をがらりと変えました。ブールデルの大作の石膏原型が飾られたこの部屋で、ムーアの代表作3点はあたかも悠久の昔からここに存在していたかのように違和感なく展示されているのです。
この部屋で、わたくしをまず迎えてくれたのは≪衣をまとった横たわる像≫(1952-1953)。抽象的で美化された女性のシルエットがモダニズムを感じさせるヘンリー・ムーアらしい彫刻です。そしてわたくしの眼は、部屋の中央に飾られた≪防空壕の人≫(1983)に釘付けになりました。丸みを帯びた防空壕のかたちがとりわけ印象的で、ブロンズの緑青が素晴らしい作品です。お隣の展示室にはブロンズの小品が展示されていました。ムーアの家族への想いを映した≪ファミリー・グループ≫(1944)をはじめとする作品を前に、わたくしは深い感動を覚えずにはいられませんでした。作品に刻まれた親、そして子どもたちの姿をご覧になれば、皆さまもきっと心を揺さぶられることと思います。内庭を囲む展示室には、古代にまつわる彫刻が並んでいます。
▲《直立する内/外のフォルム》(1952-1953)
Plâtre coloréen surface, hauteur : 200,5 cm
Non signé
The Henry Moore Foundation Much Hadham don de l'artiste 1977
   
▲ヘンリー・ムーア≪衣をまとった横たわる像≫(1952-1953)
Bronze, longuer : 157,5cm, tirages 3+1
Fonte inconnue : Fiorini, Londres (0/3)
Signature : Moore
The Henry Moore Foundation, Much, Hdham, don de l'artiste 1977
ギリシア生まれの妻をもったブールデルと、ギリシアへ旅してその神話を再発見したヘンリー・ムーア。ギリシア神話を人類の共通遺産であると捉えたふたりの彫刻家の芸術、そしてギリシア美術が彼らに与えた影響を探ることのできるこの特別展、機会があれば是非、足を運んでみてくださいね。









 
   
▲ポルザンパルク翼に展示された≪モントーバンの戦士≫。
パリ、ブールデル美術館
©Musée Bourdelle/ André Morin
▲ブールデル《うずくまる水浴の女》。
パリ、ブールデル美術館
©Musée Bourdelle / André Morin
▲≪アルヴェアール将軍騎馬像≫(1913-1923)
エングルヴィル、ブールデル庭園美術館
©A.de Montalembert
 
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