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  狩猟自然博物館  
 
▲モンジュラス館のファサード。
©Musée de la Chasse et de la Nature /photo E. Le Marchand
ルーヴル美術館や、ルーアン美術館、トゥールーズ美術館……。こうした美術館をはじめとするさまざまな団体からの作品の委託や、コレクターからの寄贈を受けて、このミュゼのコレクションは充実し、ゲネゴー館は次第に手狭になっていきました。そんな最中の2002年、館長のジャック・フランソワ・ド・ショーナ・ランザックの粘り強いはたらきかけによって、ついに隣邸のモンジェラス館を買い足すことができたのです。それは、かつて創設者のソメールが抱いた夢でもありました。18世紀に建てられたモンジェラス館もまた、あちらこちらで傷みや損傷が進んだ建物でしたが、当時の資料を手がかりに、ファサードは1705年当初の美しさを取り戻しました。そして、幾重にも施された塗料の下からは、もともとの指物細工を染めていた色が蘇りました。その青の美しいことといったら!
   
   
一方、建物内部の改装のためには参考となる資料が見つかりませんでした。ところが、これがかえって功を奏することとなりました。つまり、拠り所とすべき古資料がないがために、財団は多くの現代アーティストの手を借りることにしたのです。彼らは美学的な見地に立ちながら入念に素材を選び、配色を決めていきました。

ミュゼに入られたら、まずブラジル人アーティスト、サン・クレール・サン・セルナンの作品をご覧になって。彼は狩猟というテーマにインスピレーションを受け、森とそこに潜む動物たちの姿を描き出しました。どこに動物たちが隠れているか探してみてくださいね。このアーティストは、ミュゼ全体の装飾も手がけたのですが、照明器具や壁灯から階段の手すり、ドアノブなど、館内にある品々がどれひとつとっても個性的で洗練された魅力を放っているのはそのせいなのでしょうね。
▲狩猟自然博物館、ゲネゴー館。
©A.de Montalembert
   
美術館内のいろいろな部屋へ行かれるようにと、新しい階段が設けられました。こうしてひとつひとつの部屋をめぐってみると、わたくしたち人類の動物観が古代から現代に至るまでのあいだにどのような進化を遂げてきたのか、そして、ある種の動物たちがどのようにして人類に危険と見なされ、絶滅の危機に瀕するようになってしまったのかがよく分かります。各々の展示室にはそれぞれシンボルとしての動物が捧げられていますが、それは、ヨーロッパのある時代におけるその動物の位置づけや信仰と関わりをもっているそうです。
 
▲剥製の飾られた「猪の間」。
©Musée de la Chasse et de la Nature /photo E. Le Marchand
ミュゼの順路に沿って進んでゆくと、巧妙な仕掛けの調度品がところどころに置いてあり、動物、そして彼らを取り巻く環境に関して多くの知識を与えてくれます。「キャビネ・ド・キュリオジテ(珍奇陳列室)」……わたくしは、在りし日のミュゼの姿に思いを馳せずにはいられませんでした。動物たちに捧げられた部屋を探訪なさるなら、お子さんを連れていかれてはいかが?そして、子どもたちのようにためらうことなく、扉に書かれた説明書きを読み、双眼鏡を手にし、引き出しを開けてみてください。皆さまきっと驚かれるに違いありません。

ひとつめの部屋では、猪がわたくしたちを出迎えてくれます。創設者ソメールが自らの事業のシンボルに選んだこの獰猛な動物は、古来、アルデンヌ地方に多く生息していますが、森や畑に大きな被害をもたらすため、ひどく恐れられているそうです。腕のいいハンターでも、猪を捕らえて殺すには優に6〜7時間はかかるんですって。テオドール・ボイエルマンス(1620-1678)が描いた《カリュドンの猪を殺すメレアグロス》という大きな神話画をご覧になれば、猪の鋭い牙から猟犬を守るため、かつては猟犬に馬の毛のマントをまとわせていたことがお分かりになるでしょう。
   
「猪の間」をご覧になったら、お隣の小さな部屋「ディアナの間」へお通りになって。一歩足を踏み入れると、なぜか奇妙な感覚が……そこで、天井を見上げると、絨毯のごとく敷き詰められた羽毛のあいだから、何羽ものふくろうが浮かび上がり、まるで人間のような目をしてこちらを見ているではありませんか!これはアントワープの現代芸術家、ヤン・ファーブルの作品です。イザベル・ド・ハブスブルグ(1566-1633)の注文で作られたピーテル・ポール・ルーベンス(1577-1640)とヤン・ブリューゲル・ド・ヴェルール(1568-1625)の2枚の絵もお忘れなく。狩りの女神ディアナの神話をモチーフにしたもので、猟犬の群れが描かれています。
▲「ディアナの間」にある現代芸術家ヤン・ファーブルの作品。
©Musée de la Chasse et de la Nature /photo E. Le Marchand
▲アンドレ・ドラン《狼狩り》。
©Musée de la Chasse et de la Nature /photo Sylvie Durand
次の間に入ると、目の前に鹿と狼が現れますが、わたくしの視線は、崇高なまでに威厳のある鹿の姿にすうっと引き寄せられていきました。この森の支配者に対して敬意を表し、部屋の後方には、鮮やかな色をそのままに残した15世紀のタピスリーが飾られていました。一方、狼は悪のイメージを表しています。従順な動物で、キリストのシンボルでもある羊をむさぼり喰らうこの獣は、賢いだけによりいっそう危険な動物でもあるからです。ドラン(1880-1954)が1930年頃に描いた《狼狩り》という作品では、茂みから顔を出した狼が、恐るべき顎で猟犬を威嚇し、犬もまた牙をむいて立ち向かう様が描かれています。
   
このサロンは板張り装飾が施されていますので、心地よい長椅子に腰をかけ、ゆっくりと時間をかけて繊細な装飾の美をご堪能なさって。シャンデリアは鹿の住む森、その光を受けてきらめくローテーブルの鏡板は、あたかも深い森のようです。そして、お隣の小部屋は、大きな角を持つ馬に似た空想上の動物「一角獣」の小部屋です。かつては、一角獣の角を粉末にすると魔力、とりわけ解毒剤としての魔力を持つとされていたそうです。
 
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