Francais 日本語 ピエール・ロティの家
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そして、続く東洋風の部屋は、ロティの理想郷であり、こよなく愛した東洋の世界へとわたくしたちを誘います。室内の装飾は『千一夜物語』さながらで、なんとモスクが備えられています。このモスクは、この家の中でもっともすばらしく、みごとな作品といえましょう。なんと驚くべき空間なのでしょうか。雰囲気の異なるいくつかの空間が同居するこの部屋は、モスクであると同時に、応接間でもあるのです。

モスク部分には彩色大理石のきりばめ細工で作られたみごとなタイルがあり、中央に泉、そして奥にはミヒラーブがあります。白と赤の大理石の円柱の上には、ニス塗装の施された杉の大きな天井が張られています。ロティはイスタンブールのトプカプ宮殿の墓地に隠していたアジヤデの墓の石碑といくつかの記念碑を、1905年、この部屋に移しました。記念碑は刺繍で覆われ、トルコの甲冑で飾られています。

応接間の部分には心地よさそうな長椅子があり、イタリア式の螺旋形円柱の上に置いたシュロの葉で葺いた屋根で覆われています。そうしたひとつひとつの要素が集まって、この部屋は、空想、瞑想、そして安息にふさわしい場所となっているのです。


▲モスクのある部屋
Maison Pierre Loti © Ville de Rochefort

モスクからはとても小さな部屋に通じています。そこは砂漠にあるベドウィンのキャンプから着想を得たアラブ風の寝室で、屋根にはシュロの葉が葺いてあり、キリムや色とりどりの織物で覆われたとても背の低い長椅子が置いてあります。

向かいにあるトルコ風のサロンは、アジヤデの思い出に捧げられたもので、ロティのお姉さまが描いた小さな肖像画が掛けられています。この小さな部屋は作家にとってある種の聖域のような空間だったのでしょう。ロティはこの部屋で腰掛けに寝そべり、ノスタルジックな空想にふけることを好んでいたといいます。


▲アラブ風の寝室
Maison Pierre Loti © Ville de Rochefort

▲トルコ風のサロン
Maison Pierre Loti © Ville de Rochefort

1階では、まったく別の世界がわたくしたちを待ち受けていました。ロティの寝室は、さながら修道士のような飾りのなさで、この家の他の部分と好対照をなしています。ここでは、室内装飾は洗練とは無縁でどこまでも質素、そして本物です。たとえば、錬鉄のはしごがついた簡素なベッドなど、彼が軍人だった過去を思わせる品がいくつかあります。そして、部屋の中央にある彼の手の複製を目にしたわたくしは、文学者ロティの世界に思いを馳せ、今なお彼がここにいるのだと感じずにはいられませんでした。ピエール・ロティは、わたくしたちの意表を付き、驚かせたがっているようです。ひとつの家の中で、このように対照的な世界を必要としたということは、情熱あふれる旅人であり、人を夢中にさせる語り手であったロティの、苦悩する魂と型にはまらない運命を反映しているのではないでしょうか。


▲ピエール・ロティの寝室
Maison Pierre Loti © Ville de Rochefort

ここは、彼が旅をし、そして愛した世界各地のさまざまな地がひとところに再現された場所です。それこそが、この家をユニークなものにしているのでしょう。異国情緒あふれる贅沢な世界から、あくまでシンプルな実生活へ──。ロティがそんな境界をやすやすと超える旅人であったことを、訪れる者に体感させてしまう空間なのです。改修されてから1世紀。ピエール・ロティの奇妙で不思議な世界が詰まったこの家に、わたくしたちは魅了されずにいられません。

親愛をこめて。


▲庭にある回廊
Maison Pierre Loti © Ville de Rochefort

▲ゴシック風の窓
© A de Montalembert

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