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トランプ博物館 backnumber
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▲中2階の様子。
©Ville d'Issy-les-Moulineaux

中2階に飾られているのは、近代および現代のアーティストたちによる作品です。最初の展示ケースには、ジャン・デュビュッフェの《ウルループ》(1962-1974)シリーズのトランプ、88歳にしてオリジナルのゲームを作ったソニア・ドローネー(1885-1979)の美しい作品、さらには、スイスの現代アーティスト、エグベール・モーシュナンによる金箔にシルクスクリーンのそれは見事な小さいカードが展示されています。また、別の展示ケースには、2着の衣装が飾られているので、ぜひご覧になってください。これはディアギレフ(1872-1929)率いるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)が、1919年に上演した『風変わりな店』というバレエ作品のために、アンドレ・ドランが特別に制作したものです。ドランは、19世紀のカードから着想を得て、ハートのキングが着る優美な衣装を作りました。また、だまし絵や大小の飾り絵などからは、トランプが装飾芸術に与えた影響を見ることができます。


▲バレエ『風変わりな店』で使用されたアンドレ・ドランによるハートのキングの衣装、フランス、1919年
©Musée Français de la Carte à Jouer & Galerie d'Histoire de la Ville d'Issy-les-Moulineaux

次は、ちょっと変わったカードを見てみましょう。フランス革命下には、王政のシンボルを共和制のシンボルに置き換えた新しいカードが数多く生まれました。キングは神、クイーンは自由、そしてジャックは平等の擬人像に置き換えられています。不恰好な髪型や、革命のシンボルであるフリジア帽などが表され、賢者、美徳、勇者といった古代文明からとられたテーマも見られます。そのほか、革命暦から着想を得たカードもあり、自然の力や季節の移り変わり、そして農民が称えられています。


▲旧ギュイエンヌ地方のトランプ、右から<美術の擬人像><流通の擬人像><平等の擬人像>、作者不明、フランス革命期。
©Musée Français de la Carte à Jouer & Galerie d'Histoire de la Ville d'Issy-les-Moulineaux

この中2階には、ほかにもまだまだ変わったカードが展示されています。空想的なものから、ユーモラスなカード、さらに学習的なカードまで。幼いルイ14世(1638-1715)のために、宰相のマザラン(1602-1661)が教育トランプを作らせて以降、17世紀から18世紀には、カードは貴族の子弟が歴史、地理、兵法を学ぶためのツールとなりました。見学する方のご希望に応じて30秒間だけ明かりが照らされるパネルを使うと、在りし日の色のままの<花遊び>の芸術的なカードや、<7枚の仲間>と呼ばれるとてもおもしろいカードゲーム(1870年頃)をご覧いただくこともできます。こうした変わったカードは、19世紀末以降、進化して広告媒体となり、表にはオリジナルの絵柄、裏にはスポンサーのマークが描かれるようになります。ほかにも、漫画から着想を得たユーモラスなカードもありました。


▲アヴリヨンによる<ブルゴーニュの絵札>の原版、18世紀。
©Musée Français de la Carte à Jouer & Galerie d'Histoire de la Ville d'Issy-les-Moulineaux

庭園と同じ階にある展示室の中央では、固定家具の中に15世紀から20世紀にかけてのフランスのトランプが展示され、可動式の書見台にはヨーロッパや世界中のカードが飾られています。また、部屋の両側には、タロットカードやトランプ占い、製作技術やカードに関連する品々が展示されています。


▲<ヴェニスの絵札>より《杯の王様と杖の王様》 Pignalosa出版、ナポリ(イタリア)、1940年代。
©Musée Français de la Carte à Jouer & Galerie d'Histoire de la Ville d'Issy-les-Moulineaux

トランプの起源は、7世紀から8世紀の中国にまで遡り、ヨーロッパでは13世紀から14世紀にヴェネチアに到来したのが始まりです。フランスでは1800年頃まで、国内の9つの地方に対応した<地方札>が数多くあり、カードにはとても特徴のある人物が描かれていました。今日のカードの祖先<パリの絵札>は、フランスの北半分の地方札に由来します。この博物館には、カード職人、ギュイヨン・ギミェが製作した《顔のカード》(1510年頃)と呼ばれる最も古いひと揃いのカードが収蔵されています。キングには、ダビデ、シャルルマーニュ、シーザー、アレキサンダーの名が付けられ、王政のシンボル(王冠や王杖)が一緒に描かれています。トランプの4つのマークは、すでにスペード、ハート、ダイヤ、クラブです。その美しく、繊細なことといったら。17世紀までのグラフィック・ワークは、じつに注目に値するものなのです。そして、おもしろいことに、体をひねったシルエットの肖像がいくつもある一方で、18世紀以降、とりわけブルゴーニュのカードでは肖像がこわばっているようになっています。まさに、学芸員のマダム・バルビエールがおっしゃられたとおりでした。
トランプの製造が発展を遂げるきっかけとなったのは、ゼログラフィー(乾式複写技法)の発明でした。職人たちは木版でカードを作っていましたが、17世紀以降は銅版を用いるようになり、色を調整するためにステンシルが使われるようになりました。1800年以降は、機械化、そして新しい技術がカード界にも大きな変化をもたらしました。革命政府やナポレオンは独自の絵札を定着させようとしましたが、王政復古後には、結局<パリの絵札>に戻りました。今日の<フランス絵札>のカードは、直接的にはこの<パリの絵札>に由来するもので、1833年には、上下ふたつの顔があるスタイルに変えられるなど、若干の変更が加えられています。

ヨーロッパ諸国のカードが展示されている車輪の付いた書見台には、ドイツやイタリアをはじめとするいくつかの国々が、フランスのカードから影響を受けながら、独自の人物とマークを持つ<地方札>を失わずにいたことが分かります。イタリアでは、古くからあるラテンのマーク(聖杯、刀剣、棍棒、貨幣)が残されていて、たとえば代表的な<ヴェニスの絵札>には、細くてまっすぐな棍棒が描かれています。そのまま書見台をご覧になれば、アジアには、形も内容も、とてもユニークなカードがあることにお気付きになられるでしょう。インドには小さくて丸いカードがありますし、日本の百人一首や花札もとても独創的なカードです。


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