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バルザックの家 La Maison de Balzacマダムの連載の一部(10館)が本になりました。 バックナンバーを読む
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▲中庭に面した建物
©Anne de Montalembert

債務者から逃れるため、バルザックは毎年引っ越しました。「バルザックの家」は、パリに現存する唯一の彼の家です。とても“実用的”で、ベルトン通りから逃れて、パリの中心に簡単に出られるようになっていました。バルザックは1840年から1847年の7年間をここで暮らしましたが、これは最長記録です。庭に面した5部屋からなる質素なアパルトマンを借りるために、バルザックは「ブルニョル」という偽名を使いました。これは彼の家政婦の名前で、家に入るための合い言葉ともなっていました。ヴィクトル・ユゴー、テオフィール・ゴーティエ(1811-1872)などの何人かの友人だけがそこに入ることができました。狂ったように働き、『浮かれ女盛衰記』(1838-1847年)、『従妹ベット』(1846年)、『従兄ポンス』(1847年)など数多くの小説を執筆します。また『人間喜劇』の改訂にも取り掛かりました。


▲ベルトン通りに面したバルザックの家
©Anne de Montalembert

▲かつてバルザックが抜け道としたベルトン通り
©Anne de Montalembert

▲ジャン=ピエール・ダンタン《オノレ・ド・バルザック》彩色石膏 1835年
©Maison de Balzac / Roger Viollet

家の入り口には、バルザックの時代の部屋割りが分かるように模型が展示されています。その次の部屋には、この作家を称賛、あるいは批評する文章の短い引用が壁一面に書かれています。また、バルザックのさまざまな肖像画(青年期のもの、老年期のもの、真面目な顔、笑った顔、たくましいもの、でっぷりしたもの)が飾られています。ベルタル(1820-1883)作《オノレ・ド・バルザック》(1842年以降)は、簡素な服を着て右手を胸に当てた姿のバルザックが堂々とした様子で描かれています。その隣にあるバンジャマン・ルボー(1811-1847)の風刺画では、丸々としてあらゆる不節制をする人物として描かれています。ジャン=ピエール・ダンタン(1800-1869)の彩色石膏像《オノレ・ド・バルザック》(1835年)も同様、太鼓腹で陽気な顔のバルザックを表しています。


▲パリの社交界で話題となった、ルコワント作のバルザックのステッキ
©Maison de Balzac / Roger Viollet

赤い壁のふたつ目の部屋では、バルザックを取り巻く人々が紹介されています。暖炉の上には、画家ジャン・ジグーによって描かれた、結婚してエヴァ・ド・バルザックとなったハンスカ夫人の肖像画(1850年頃)があり、作家亡き後の喪服姿の夫人の面影を今に伝えています。また、同じ画家の作品で、フォルチュネ通りの美しいサロンにいるハンスカ夫人を描いたものもあります。そのサロンには、今では、バルザックの愛用品が、それぞれの場所に収められています。展示ケースには、金、ターコイズ、真珠があしらわれた、ルコワント作のかの有名なステッキが飾られています。途方もなく高価だったと伝えられるこのステッキは、パリの名士たちの間で話題となった逸品です。社交界を気取って歩くのが好きだったバルザックは、数々の批判の的ともなったのです。部屋にはバルザックの両親の肖像画も展示されています。パステル画(1798年頃)に描かれたパリの小ブルジョワ家庭の出身の母親(1778-1854)は、きれいな青いドレスに素敵な黒い帽子をかぶっていて、とてもエレガント。農家の出身の父親(1746-1829)は、大変出世し、トゥールの助役にまでなった人物です。


▲ダヴィッド・ダンジェ作の大理石胸像が置かれたバルザックの仕事部屋
©Christophe Fouin

バルザックの仕事部屋は、木の天井に美しい樫材の床の角部屋ですが、その小ささに驚かされます。16世紀のクルミ材の仕事机と少し色褪せた綴れ織り張りの肘掛け椅子が置かれただけのこの質素な部屋で、文豪は素晴らしい想像力を駆使して執筆したのです。ステンドグラスのはめ込まれたふたつの窓の間には、ダヴィッド・ダンジェ(1788-1856)作の有名な大理石胸像が、ロマン派の肖像の伝統に従って、バルザックの偉大さと力強さを表しています。壁には、バルザックが愛した有名な木製キリスト像が飾られています。バルザックはこの像をイタリア製の額に入れていましたが、誤って有名な彫刻家ブシャルドン(1698-1762)のものと考えていました。フォルチュネ通りの家から持って来た寄せ木細工の扉をご覧になれば、バルザックがいかに洗練された趣味の持ち主であったかがお分かりいただけることでしょう。


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