ロダン以後の彫刻の歴史に大きな足跡を残したアルベルト・ジャコメッティのかつてないほどの大規模な回顧展が、今秋よりポンピドー・センターで開催され、フランス国内外で話題になっています。6年前に行われた生誕100年展をはじめ、ジャコメッティの回顧展は世界の都市で度々開催されてきましたが、600点を超える出品作のほとんどが、パリのアルベルト&アネット・ジャコメッティ財団所蔵の未発表作品で構成された今回の展覧会は、まさに初めての試みです。さらに、石膏像を始めとする希少な作品が数多く出品されていることも、本展覧会が注目を集めている理由のひとつといえるでしょう。ジャコメッティの息遣いまでもが伝わってくるかのような特別展のレポートをいち早くお伝えします。
©Yoshiko OKAMURA
本展覧会は、アトリエという創造の磁場を軸にして、「スイスでの少年時代」「パリにおける初期作品」「ジャコメッティと写真家たち」「アトリエ」「シュルレアリスム期」「頭部とは何か?」「彩色された石膏像」「テーマごとの連作」という8つのセクションに分けられ、ジャコメッティの制作の軌跡を辿ることができる構成になっています。
なかでも特筆すべきなのは、1926年から1965年までの約40年間を過ごした、モンパルナスの南、イポリット・マンドロン通り46番地のアトリエを再現した展示室ではないでしょうか。展覧会場で最も広く大きいこの展示室でまず目を引くのは、デッサンが多く残されたアトリエの壁でしょう。これらは、ジャコメッティの死後、フレスコ画の修復家によってアトリエからパネルに移されたものです。そこに描かれているデッサンは、家具デザイナーであり、石膏取り等の彫刻の助手も務めていた弟ディエゴへの指示や、湧き上がったイメージを書き留めたものとされています。たしかに、描かれているデッサンに目を凝らすと、現在ブロンズ像となっている作品をいくつも見出すことができました。
また、同展示室の別のコーナーには、愛用した椅子やイーゼル、覚書が画びょうで留められたままのたんすやストーブなどの家具類が並べられています。
そして片隅には、アトリエに猫がいたことを思い起こさせる、今まさに目の前を通り過ぎていくかのような歩く猫の彫刻が、さりげなく置かれています。
同展示室には、間隔を開けずに多くの彫像が展示されていることも忘れてはいけません。それらは、かつてのアトリエにおいて、いたるところに無数の彫像が置かれていたことを思い浮かべさせます。この展示室ではマッチ箱に入ってしまうほどの小さな彫像から2メートル以上もある大きな彫像まで、労苦の末に生み出されたさまざまな時代の作品が展示されているのです。
石膏の粉と塵や埃にまみれた小さく簡素なアトリエで、昼夜を問わず、ひとつの到達点を目指し、疲れて動けなくなるまで日々制作に挑み続けたことから、ときにギリシャ神話に登場するシシュフォスにも例えられるジャコメッティ。それでもこのアトリエの片隅で、大変稀なことに納得のいく作品がふいに誕生したことがありました。あるときテーブルを片付けようとしたジャコメッティが、無造作に床に置いてあった複数の彫像を一瞥したとき、そこに自分が探し求め、実現したいと願っていたものを見出します。それは前年の秋に森で見たある光景でした。そこでジャコメッティは、複数の彫像を床に置いてあったままの配置で台座にのせ、『森』『林間の空き地』と名付けたふたつのコンポジション作品を生み出しました。
文:岡村嘉子(Yoshiko OKAMURA)
筆者プロフィール:
千葉大学大学院修士課程芸術学専攻修了。メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランススタッフ。美術史家。専門はアルベルト・ジャコメッティ。
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所在地
75191 Paris Cedex 04
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Tel
+33(0)1 44 78 12 33
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URL
http://www.cnac-gp.fr/
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開館時間
11:00-22:00
美術館および展示室:11:00-21:00
(カウンターは20:00まで)
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休館日
火曜日、5月1日
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入館料
受付、カウンター、および当日プログラムにて案内。美術館は18歳未満および毎月第一日曜日は無料。
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アクセス
メトロ ランビュトー(Rambuteau)、オテル・ドゥ・ヴィル(Hotel de Ville)、シャトレ・レ・アル(Châtelet-les Halles)各駅下車。
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入館料
「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」
2007.10.17-2008.2.11 10€
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MMFインフォメーション・センター
では、今回ご紹介した展覧会「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」展のカタログをはじめ、ジャコメッティに関する書籍や図版を閲覧いただけます。
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