海洋博物館 企画展「水兵がモードを創る」 ガリエラ美術館 企画展「クリノリンの帝国のもとで」

ナポレオン3世の時代と舞踏会
 今回の展覧会は舞踏会をテーマにした展示から始まります。舞踏会は当時の活気あふれる経済の象徴であり、ナポレオン3世の帝政下で頻繁に開かれました。展示室では上流階級の人々が集う宮廷の舞踏会の様子を再現しながら、クリノリンの女性的なシルエットのドレスを複数展示しています。
 第二帝政の初めの10年間は、比較的落ち着いた色合いのドレスが目立ちますが、1860年代になるとドレスの装飾も多様化し、その華やかさを増していきます。レースやリボン、花飾りにチュールなど、とても手の込んだ装飾が施されたドレスはこの時期の典型的なスタイルです。髪飾りに関しても造花やリボン、羽などがふんだんに使用され、ドレスと贅沢にコーディネートされました。
▲舞踏会用の縞模様のドレス(1868-1869年)
© Stéphane Piera / Galliera / Roger-Viollet
▲黒の繊細なレースを重ねた舞踏会用のドレス(1866-1867年)
© Stéphane Piera / Galliera / Roger-Viollet
▲皇后ウジェニー(1861年頃/Mayer & Pierson による写真)
© Stéphane Piera / Galliera / Roger-Viollet
 今回の企画展では、ナポレオン3世の妻、ウジェニー(Eugénie de Montijo)の衣装やアクセサリーが複数展示されています。ウジェニーは“モードの女帝”と呼ばれるほど、当時のモードに大きな影響を与えた人物です。彼女の装いはつねに世間から注目を集め、皇后御用達となったメゾンは名声を得て、大きな成功を収めました。また布やアクセサリーなどのモード関係の商品にウジェニーの名前を冠することもしばしばありました。ウジェニーはマリー=アントワネット(Marie-Antoinette)に心酔していたことでも知られ、ナポレオン3世がプレゼントした王妃のイヤリングを好んで身に着けていたともいわれています。
 舞踏会は女性にとって、自慢のアクセサリーを披露する場でもありました。展示品の中で第二帝政期特有のデザインとして挙げられるのが、カンパーナ(Campana)コレクションからインスピレーションを受けた古代風デザインのネックレスとイヤリングです。カンパーナコレクションとは当時ナポレオン3世が購入した膨大な数の古代美術品で、現在それらのコレクションはルーヴル美術館に所蔵されています。

近代的生活に伴う服飾の変化
 第二帝政時代は産業の機械化や鉄道の敷設など、急速に近代化が進み、人々の日常生活が大きく変化した時代です。鉄道の敷設によって遠方への外出が容易となり、人々は海や山などの避暑地へ気軽に足を運ぶようになりました。人々の新しい余暇の楽しみ方に伴い、避暑地での生活や移動に適したドレス、また旅行用の小物など、女性の服装や持ち物にも機能面を考慮した新しいデザインが生み出されます。
▲ベージュの夏用のアンサンブル(1866年頃)。素材によっては機械による布地やレースの大量生産も行われた
© Stéphane Piera / Galliera / Roger-Viollet
▲バイオレットの街着( 1868年頃)。当時は化学の進歩で鮮やかな人工色が開発され、ドレスに用いられた
© Stéphane Piera / Galliera / Roger-Viollet
▲「変形可能なドレス」のコルサージュ部分
© Yoko Masuda
 また都会でも、時代の風潮に対応しながら女性のドレスに変化が現れました。都会の生活リズムは以前に増してテンポの速いものになり、上流階級の女性達は、夕食会、コンサート、観劇、レセプション等、状況に応じて一日の間に何度も着替える場合がありました。そこでスカート部分を変えないままで、上部のコルサージュのみを着替えることのできる、「変形可能なドレス」が考え出されます。これは、日中にも夜会にも通用する、当時の社交界の女性に重宝された新しいドレスの形態でした。近代化する社会に適応しながら、華やかなデザインと機能の両面を重視したドレスが作られたのもこの時期の特徴です。
 展示室ではドレスとともに帽子やバッグ、パラソルや扇などの小物類の展示も観ることができます。パラソルや扇は実用性だけでなく、アクセサリーとしても機能するため、女性にとっては重要な小物でした。パラソルの柄には彫刻が施され、扇の骨部分はみごとな螺鈿で装飾されるなど、18世紀の王侯貴族に劣らない、当時の人々のモードに対する情熱を垣間見ることができます。バッグ類はそれまでの小さな手提げバックに留まらず、実用的な旅行用のバッグなどがこの時期、デパートでも売り出されます。
▲レースが施されたパラソル。象牙や珊瑚でできた柄は、細かい彫刻で装飾されている
© Yoko Masuda
▲銀、象牙、クリスタルで作られた旅行の必需品とその道具箱(1870年頃)
© Yoko Masuda
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文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
著者プロフィール
明治大学文学部史学地理学科卒業後、パリ第4大学(ソルボンヌ大学)で美術史学を専攻し、修士課程修了。現在同大学美術史学博士課程。専門は19世紀後半の装飾美術、主にジャポニスム。
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美術館の コレクションと企画展第二帝政時代と 服飾文化モードの商業化と パリのリュクス
ガリエラ美術館
  • 所在地
    10, avenue Pierre 1er de Serbie 75016 Paris
  • Tel
    +33(0)1 56 52 86 00
  • Fax
    +33(0)1 47 23 38 37
  • アクセス
    地下鉄イエナ(Iéna)駅、またはアルマ・マルソー(Alma Marceau)駅より徒歩。
    ※ガリエラ美術館は企画展開催期間のみ開館。
  • 企画展情報
    「クリノリンの帝国のもとで〜1852-1870」 【開催期間】
    2008年11月29日-2009年4月26日
    【開館時間】
    火曜〜金曜は10 :00-18 :00、
    土曜・日曜は10 :00-19 :00
    【休館日】月曜
    【入館料】一般:8.5ユーロ、割引料金:7ユーロ、14歳-26歳: 4.20ユーロ
    ※この企画展の図録は、MMFインフォメーション・センターにて閲覧いただけます。

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