「フランス絵画の19世紀」展 その見どころと展覧会レポート

主任学芸員、新畑泰秀氏による見逃せない4作品

本展は、19世紀のフランス絵画史を時代の流れに沿って見せています。
第1章から第4章に分けられた展覧会を順を追って見ていけば、
歴史的背景も、そして絵画界全体の流れも、わかるような構成になっています。
ではここで各章ごとに、見逃せない作品とその魅力をお伝えしましょう。

19世紀フランス絵画の 本質が見える展覧会

主任学芸員、新畑泰秀氏による見逃せない4作品

「フランス絵画の19世紀」展  開幕初日レポート

第1章 アカデミスムの基盤〜新古典主義の確立

 まず第1章では、フランス革命を経て新しい時代に新たな美術様式が求められるなかで、ダヴィッド(Jacques-Louis David)を総帥とし、古代に普遍的な美の規範を置く新古典主義が、アカデミスムの基礎をかたちづくり、やがて次代を代表するアングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres)らによって、創造的に継承されていく過程を示しています。

▲ミシェル=マルタン・ドロリング《アキレウスの怒り》1810年
パリ、国立美術学校蔵 
école nationale supérieure des beaux-arts, Paris

ミシェル=マルタン・ドロリング(Michel-Martin Drölling)は、新古典主義の代表的な画家です。当時、画家として名を成そうとする者は、国立美術学校で修業を積み、過程の集大成を発揮する機会として催されるローマ賞コンクールに参加して入賞し、ローマに留学することを目指しました。《アキレスの怒り》は、このコンクールの課題として提出されたもので、見事首席となった作品です。描かれているのはホメロス(Homéros)によってつくられた古代の叙事詩『イリアス』の最初の挿話。トロイア戦争10年目のある日に起こった、ギリシア勢の代表アガメムノーン(Agamemnôn)に、内縁の妻ブリセイス(Briseïs)を、不条理な理由でとられようとすることに対するアキレウス(Achille)の怒りが描かれています。

第2章 ロマン主義の台頭とアカデミスム第一世代

 第2章では、新古典主義に対抗して、ドラクロワ(Eugène Delacroix)らが色彩を重んじ、筆触の効果を生かした生命感溢れる表現で、文学・東方世界・同時代の事件など、主題の幅も大きく広げ美の多様性を追求していくロマン主義の登場と、これに影響を受けながら歴史的風俗画という絵画様式を生み出したアカデミスムの第一世代を紹介しています。

▲ジャン=オーギュスト=ドミニック・アングル&アレクサンドル・デゴッフ《パフォスのヴィーナス》(第1章に展示)1852年頃
オルセー美術館蔵
©Photo RMN / H.Lewandowski/digital file by DNPartcom
▲ウジェーヌ・ドラクロワ《シビュレと黄金の小枝》1838年
ヤマザキマザック株式会社蔵

アングルの《パフォスのヴィーナス》に見られる、白亜の石像を思わせる均整のとれた女性像と、ドラクロワの《シビュレと黄金の小枝》に見られる、物語の展開を予感させるような劇的表現の対比は、保守と前衛の明確な立場の差異を示しています。キプロス西部のパフォスは遠い昔からヴィーナス(Venus)の聖地といわれました。言い伝えによれば、マルス(Mars)との密通を夫ウルカヌス(Vulcānus)に見つかり、夫から嘲笑を買ったヴィーナスはパフォスに逃げ込んだといいます。しかし、このタイトルは、画家自身が付けたものではないらしく、画面のイメージに喚起されて付けられたもののようです。

第3章 アカデミスム第二世代とレアリスムの広がり

 第3章では、市民社会が熟成していく中、クールベ(Gustave Courbet)やミレー(Jean-François Millet)などによって「市民の時代の市民の絵画」であるレアリスムが登場していく一方で、保守派が特権的な権威を失っていく様を紹介しています。

▲ウィリアム=アドルフ・ブグロー《フローラとゼフュロス》1875年
ミュルーズ美術館蔵
Mulhouse, Musée des Beaux-Arts (collection Société Industrielle de Mulhouse) © Christian Kempfis

ブーグロー(William-Adolphe Bouguereau)は19世紀後半を代表するアカデミスムの画家です。その代表作である《フローラとゼフュロス》は、1878年の万国博覧会にも出品された、直径約2メートルにおよぶ巨大な作品です。アカデミスムが世紀前半に美の理想を堅持しようとしたのとは異なり、ここでは、新しい市民が求める甘美な表現を、完成された技量によって示しています。曙の女神エオス(Heōs)とティタン神族アストライオス(Astraios)との間に生まれた息子のひとりゼフュロス(Zephyros)は、西風の神。あるとき彼はニンフのフローラ(Flōra)をさらい結婚しました。そして彼女は花を生み出す女神となったのです。

第4章 アカデミスム第三世代と印象派以降の展開

 最終章にあたる第4章では、印象派の登場により、戸外制作や筆触分割といった、手法・表現上の革命をもたらされたと同時に、自己の展覧会の開催と成功により、しだいに前衛が勝利を得て、これに保守派も歩み寄り、新しい世紀の絵画が準備されることを示しています。

▲エドゥアール・マネ《カルメンに扮したエミリー・アンブルの肖像》1880年
フィラデルフィア美術館蔵
Philadelphia Museum of Art: Gift of Edgar Scott, 1964 Photo by: PMA Department Photography

世紀前半において、前衛の存在を決定づけたのは、マネ(Edouard Manet)でした。《カルメンに扮したエミリー・アンブレの肖像》は、人間の生きた眼がとらえる対象のイメージを、震える賦彩や鮮やかな色彩で再現し、来るべき前衛が勝利する時代を予告しています。アカデミスムの滑らかで均整のとれた表現とは対照的な、自由な筆遣いとスケッチ風の粗削りの細部。それはアカデミスムの手法では伝えることのできないモデルの生き生きとした表情と身振りを伝えています。モデルは、1879年、足を病んだマネが手当てを受けるためにパリ近郊のベルヴューに転居した際に出会った著名なオペラ歌手です。

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フランス絵画の19世紀展

  • 会期
    2009年6月12日(金)〜8月31日(月)
  • 会場
    横浜美術館
  • 所在地
    神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
  • Tel
    045-221-0300
  • URL
    美術館 http://www.yaf.or.jp/yma/
    展覧会 http://www.france19.com/
  • 開館時間
    10:00-18:00
    *金曜は20:00まで。
     入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    木曜日
    *ただし8月27日(木)は開館
  • 観覧料
    一般:1,400円
    大学生、高校生:1,100円
    中学生:800円
    小学生以下:無料
    *毎週土曜日は高校生以下無料
    (生徒手帳、学生証要提示)

MMFで出会える フランス絵画の19世紀

  • MMF3Fギャラリーでは7月2日から「カルコグラフィーで見るアカデミスム」を開催します。詳しくはこちら≫
  • MMFのB1Fインフォメーション・センターでは、「フランス絵画の19世紀」展のカタログを閲覧いただけます。

  • MMFブティックではこの展覧会のチケットを販売しています。

 

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