グラン・パレナショナルギャラリー クロード・モネ 大回顧展

連作からオランジュリーの装飾画へ〜展覧会 後半の展示〜

絶え間ない自然の変化を表現した連作

▲《積み藁 雪の効果 朝》1891年
© Museum of Fine Arts

 2階から1階へと会場を移し、展覧会は後半部分へと入ります。《積み藁》《ポプラ並木》《睡蓮の池》《ルーアン大聖堂》と、モネの代表的な連作のシリーズが展示され、従来の西洋絵画史では珍しい「連作」という手法を追究したモネ後期の核心に迫ります。モネはキャリアの初期から、ひとつのモチーフで光の加減が異なる対の絵を描くことを試みていました。この手法は一度放棄されますが、1890年代末以降、モネは改めて精力的に連作の制作を行うようになります。

▲《ルーアン大聖堂 正面入り口とアルバーヌの塔 満ちた陽》1893-1894年
© service presse Rmn / Thierry Le Mage

モネは束の間の光や、異なる視点による自然の豊かな表情に刺激を受け、それらが絶えず変化し続ける様子をカンヴァスに次々に写していきました。同一の場所を、さまざまな天候や季節、時間帯のもとに描き分けたモネの連作は、こうして美しいハーモニーを持って形成されていったのです。
 モネはふたり目の妻のアリス (Alice Hoschedé) に送った手紙の中で次のように綴っています。「すべては変化する。たとえ石であっても」。この一文にはモネが連作を熱心に描いた最たる理由が込められています。《ルーアン大聖堂》の連作は、まさに「変化する石」を描いた作品といえるでしょう。それぞれの作品には大聖堂の正面入り口が近距離から大胆に描かれており、画面上には空がほんの少しのぞいています。本来、光や時間を最も表現しやすい空を差し置いて、モネは石でそれらを表現することに成功したのです。

会場に展示された5点の《ルーアン大聖堂》はそれぞれが、曇り空や朝の日差しといった、モネがかつてこの大聖堂を前にした時の時間帯や空模様を雄弁に語りかけてきます。そして、そういった自然の微妙な変化を表現しているのが、人工物の「石」であるということに驚きを覚えずにはいられません。モネの技量、観察力、そして感性にはただただ圧倒されるばかりです。

▲《国会議事堂 陽光の効果》1903年
ブルックリン美術館
© Brooklyn Museum of Art, USA
▲1903年
アンドレ・マルロー美術館
© Gérard Blot / Christian Jean
▲1904年
オルセー美術館
© RMN (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski

オルセー所蔵の《ルーアン大聖堂》とは異なり、《積み藁》やロンドンの《国会議事堂》などの連作は、通常はなかなかまとめて見ることができない作品です。さまざまな美術館から作品が集められたこの機会に、ぜひ一枚一枚じっくりと時間をかけて見比べたい展示です。

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モネの晩期を飾った装飾画

▲《睡蓮》1904年
© Musée des beaux-arts André Malraux

 最後に紹介されるのは、モネがその画業の最後に到達した「装飾画」の世界です。モネは、初期からしばしば注文による装飾画を手掛がけていました。今回出品されている1873年の《昼食》や1886年の《日傘の女》もまた、装飾パネルとして描かれたものです。これらの作品のように、一時期モネの描く装飾画は人物がモチーフとして重要な役目を果たしていましたが、やはり、モネにとって最も豊かなインスピレーションの源となったのは、田舎の景色や庭園が広がる風景でした。中でも、モネ後期の作品が、装飾的なものとなることを運命付けたのは、ジヴェルニーの「睡蓮の池」でした。モネは四半世紀にわたりこのテーマの虜となり、円形や正方形などさまざまな形、大きさで「睡蓮の池」を描き続け、最終的に装飾の世界へと導かれていったのです。

▲《藤》1917-1920年
© Musée d'art et d'histoire Marcel-Dessal, Ville de Dreux / Photographie : Jean-Louis Losi

 《睡蓮》《しだれ柳》《藤》など、展覧会の棹尾を飾るジヴェルニーの庭の作品は、画面いっぱいを使ってモチーフを描いたものが大半を占めています。庭を主題にしているにもかかわらず、風景画の要素はあまり感じられないものばかりです。ほぼすべての作品で空は描かれておらず、水面に反射する光だけがその存在を暗示しています。カンヴァスの上で模様を織り成すように美しく乱れる色彩は、まさに「装飾」と呼ぶにふさわしい様相です。こうしたモネの晩期の作品が20世紀の抽象画家たちに影響を与えたという事実にも、大きく頷くことができました。

[FIN]

▲《しだれ柳》1920-1922年
© RMN (Musée d'Orsay) / Michèle Bellot
▲オランジュリー美術館の《睡蓮》の展示室
© photo Sophie Boegly, Paris 2010

展覧会の最後は、四方が丸みを帯びた広々とした展示室に作品が集められています。ほかの展示室とは一転した白壁の明るい空間は、モネの《睡蓮》の大装飾があるオランジュリー美術館の円形展示室を彷彿とさせます。今回の展覧会は、こうしてモネの装飾への強い思いを体現しているオランジュリー美術館へと私たちを導くように締めくくられているのです。

Update :2010.12.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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クロード・モネ 1840-1926

  • 会期
    2010年9月22日(水)-
    2011年1月24日(月)
  • 会場
    グラン・パレ・ナショナル・ギャラリー
  • 所在地
    3 avenue du Général-Eisenhower 75008 Paris(シャンゼリゼ入り口)
  • Tel
    +33(0)1 44 13 17 17
  • URL
    http://www.monet2010.com/jp
    (日本語)
  • 開館時間
    10:00-22:00
    *火曜日は14:00、木曜日は20:00まで
    *12月18日〜1月2日のヴァカンス期間中は毎日9:00-23:00
    ただし、12月24日と12月31日は18:00まで
  • 休館日
    12月25日
  • 入館料
    一般:12ユーロ
    13歳-25歳:8ユーロ
    13歳未満:無料
    *オランジュリー美術館とセットのチケット:18ユーロ(一般)
  • アクセス
    地下鉄1番線、13番線Champs-Elysées-Clemenceau駅

MMFで出会えるモネ大回顧展

 

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