バックの人生をたどるうち、展覧会場も1Fから3Fへと移動してきました。展覧会後半では、いよいよアニメーションの世界で成し得た偉大な仕事の数々が紹介されています。アカデミー賞を受賞した『クラック!』『木を植えた男』を含め、9つのアニメーションを原画やセル画とともに見ることのできるまたとないチャンス。気の遠くなるほどの時間をかけ、たったひとりで完成させるバック作品に込められたメッセージを、ぜひ感じとってみてください。
1968年、44歳になったバックに再び大きな出会いが訪れました。ラジオ・カナダにアニメーションスタジオを作ったプロデューサー、ユベール・ティゾン(Hubert Tison)との出会いです。バックはユベールとともに、多くの人々を魅了するアニメーション映画を誕生させることになります。
バック作品の魅力のひとつに、その多彩な画風があります。同じひとりの人間が描いたとは思えないほど、作品によって色使いやタッチが変わるのです。それはバックが幼い頃から培ってきた確実な素描力、そして恩師メウの言葉通り、さまざまなものを観察し、記録してきた日々の賜物にほかなりません。事物をじっくりと観察し、その本質を見逃さない目――。バック作品に宿る強烈なまでの人を惹き付ける力の秘密は、そんなところにあるのかもしれません。
展覧会場では、映像とともにその世界を構築するために描かれた膨大な原画やセル画を見ることができます。1本の短編アニメーションが完成するまでに費やされた時間と労力に、だれもが驚かされることでしょう。
実はバックは『クラック!』の制作中、スプレーの定着液が目に入ってしまい片目を失明するという悲劇に見舞われました。しかしそんな悪夢もバックの制作意欲を抑えることはできませんでした。事故の翌年、制作に入ったのがあの『木を植えた男』だったのです。5年半、およそ2万枚に及ぶ作画に取り組み続けたバックの姿は、たったひとりで荒地に木を植えていった主人公の羊飼いにどこか重なります。困難にぶつかりながらも飽くことなく蒔いた小さな種は、やがて生命の輝きに満ちた大樹へと成長する――。まさにバックの人生そのものではないでしょうか。
そして現在87歳になるバックの目は、よりいっそう、人と自然、この地球上に暮らす生きとし生けるものに注がれています。ラジオ・カナダを退職した後も絵を描き続けるバックは、環境保護や動物愛護、文化継承といったさまざまな活動に関わり、メッセージを発信し続けているのです。
私たち日本人が大きな危機を経験した今年、この展覧会が開催されたのは、単なる偶然ではないのかもしれません。「フレ
デリック・バック展」には、私たちが今こそ受け取らなければいけないメッセージが溢れているように思えてならないのです。
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© Societe Radio-Canada
In partnership with the Atelier Frederic Back, Montreal.
- 会期
2011年7月2日(土)〜10月2日(日) - 会場
東京都現代美術館 企画展示室1F、3F - 所在地
東京都江東区三好4-1-1 - Tel
03-5777-8600(ハローダイヤル) - URL
美術館
http://www.mot-art-museum.jp/
展覧会
http://www.ntv.co.jp/fredericback/ - 開館時間
10:00-18:00
*入場は閉館の30分前まで - 休館日
月曜日
*ただし9月19日・26日は開館 - 観覧料
一般、大学生:1,200円
中高生:900円
小学生:600円
小学生未満:無料
ワークショップ
「ファミリー・トーテム・ポール
〜自分たちだけのトーテム・ポールをつくろう!」
バックが暮らすカナダには、先住民族の人々が紡いできた文化がいまだ残っている地域があります。そのひとつがトーテム・ポール。彼らは身近に生きる動物や神話の中の精霊などをシンボル化し、「トーテム(紋章)」としてネイティブアートとして刻んできました。そんな彼らの伝統にならい、わたしたちも紙コップに大切な家族や友人、大好きな動物の絵を描いて、自分たちだけのトーテム・ポールを作ってみませんか? このコーナーは写真撮影が可能! 大人から子どもまで楽しめるワークショップです。
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