三菱一号館美術館コレクション<U> トゥールーズ=ロートレック展 待望の開幕!! Albi-Paris:Maurice Joyant, I’héritage de I’artiste

見逃せない作品4点

▲本展の担当学芸員、杉山菜穂子さん

ポスターを多く手掛けたロートレックは、日本でもその作品を目にする機会の多い画家のひとりです。そんな中、今回の「三菱一号館美術館コレクション<U>トゥールーズ=ロートレック展」では、これまであまり知られていなかった作品も多く出展されています。そしてこうした作品にこそ、画家の素顔の魅力が隠れているようです。 今回は本展の担当学芸員である三菱一号館美術館の杉山菜穂子(すぎやま なおこ)さんに、およそ180点にものぼる出展作品の中から、必見の作品を4点選んでいただきました。MMFスタッフの感想も添えてご紹介いたします。

Curator’s Select1

《メイ・ミルトン》 May Milton

▲《メイ・ミルトン》1895年
リトグラフ、ポスター
三菱一号館美術館所蔵

 今回の展覧会は3つの章に分けて、ロートレックの作品群を皆さまにお見せしていますが、中でも第2章「世紀末パリとモンマルトルの前衛芸術」では、ロートレックの代名詞ともいえるポスター作品を中心に展覧しています。モンマルトルの街の壁を飾った華やかなポスターをお楽しみいただけるチャプターです。そうそうたる作品が並びますが、その中でもぜひ注目してご覧いただきたいのが、色をのせないで線だけで描いた試し刷りと完成品を並べて展示している点です。例えばイギリスの踊り子だったメイ・ミルトン(May Milton)がアメリカ巡業の際にロートレックに依頼したポスター。完成作は鮮やかな青色の背景がとても印象的な作品ですが、今回はオリーヴグリーン色の線のみの版も併せて展示しています。ロートレックはリトグラフを制作する際、何度も色を変えて刷るなど、とても彩色にこだわっていました。ロートレックのリトグラフが美しく、また人々に強く訴えかけるのも、そんなところに秘密があるのかもしれません。完成作と試し刷りの両方を展示できるのも、アトリエに残されていた「ジョワイヤン・コレクション」だからこその試みです。

MMFの視線

 展覧会では、ロートレックのリトグラフやポスターを、その色彩の美しさ、流麗な線の細部まで間近に見ることができます。とてもシンプルな線だけで描かれているのに、まるで今にも踊り出しそうな表現に、見ているこちらの足どりもついつい軽やかになってしまいそう。写真手前に見えるのは、メイ・ミルトンの恋人と噂されていた踊り子を描いた《メイ・ベルフォール》(1895年 リトグラフ、ポスター 三菱一号館美術館所蔵)。《メイ・ミルトン》の背景の青と対をなす鮮やかな赤いドレスが印象的でした。

Curator’s Select2

《彼女たち》 Elles

▲《彼女たち(Elles)》1896年 リトグラフ
三菱一号館美術館所蔵

 今回の展覧会の見どころのひとつが、第3章「芸術家の人生」で展覧している、ロートレックのリトグラフ作品の集大成ともいえる『彼女たち』です。このリトグラフ集は1896年、限定100部で出版されました。三菱一号館美術館では、扉絵を含めた全11枚すべてを所蔵しており、揃ってご覧いただけるのは、めったにない機会です。ロートレックはこのリトグラフ集制作にあたって、実際に娼館で娼婦たちと生活をともにしたといわれています。彼は娼婦を描く際にありがちな、エロティックな場面は暗示するだけにとどめました。画面からにじみ出ているのは、まるで身近な友人に向けるかのような共感と賛美のまなざしです。このリトグラフ集は、皮肉にも好色性や卑猥さがまったく感じられないせいか、売り上げ的には失敗に終わりましたが、ロートレックの版画技術の粋とともに、その温かな素顔に触れていただけることと思います。

MMFの視線

 《彼女たち》の扉絵を含めた全11枚は、統一された様式や技法で描かれているわけではありません。紅色のチョークだけで表された写実的なデッサン風の描写があれば、装飾的な描写もあり、さらには使用されている紙の色もさまざまです。それはまるでやんちゃなロートレックが、「僕はこんなことも、あんなこともできるんだぞ!」と自慢しているかのよう。異なる様式と技法を見ることができるので、時間をかけて鑑賞したくなる作品群です。

Curator’s Select3

《ジュール・ルナール『博物誌』》
Histoires Naturelles de Jules Renard

▲ジュール・ルナール『博物誌』》 1899年刊 挿絵 リトグラフ
三菱一号館美術館所蔵

 《彼女たち》と同じ第3章でご覧いただいている作品群です。ロートレックは幼い頃から馬をはじめとした動物たちに深い愛情を寄せていました。これは『にんじん』などの小説で知られるジュール・ルナールのテキストにつけた挿絵作品です。動物たちを見つめる画家の確かな観察眼、正確なデッサン力、高いデザイン力のどれが欠けても成立し得なかった挿絵本の傑作でしょう。表紙には塀の上にいるキツネが描かれていますが、このキツネは作者ルナール(フランス語でキツネの意味)の名前にちなんでいます。ロートレックの遊び心が垣間見られる1作です。この作品もなかなかまとめて展覧される機会は少なく、今回の展覧会の中でもとても人気のある展示となりました。

MMFの視線

 「ロートレックがこんなにかわいらしい動物たちを描いていたなんて」と、とても驚かされた作品群です。写実的でありながら、どこかユーモアもたたえた動物たち。動物の名前を表した文字の置き方と余白とのバランスがとてもお洒落で、ロートレックのグラフィックデザイナーとしての才能を感じることができました。

Curator’s Select4

《モーリス・ジョワイヤン》 Maurice Joyant

▲《モーリス・ジョワイヤン》1900年 油彩・板 トゥールーズ=ロートレック美術館、アルビ
Musee Toulouse-Lautrec, Albi, Tarn, France

 第3章、そして展覧会の最後の部屋でご紹介している作品です。今回の展覧会でご覧いただいた、三菱一号館美術館所蔵の「ジョワイヤン・コレクション」の“生みの親”ともいえるジョワイヤンのこの肖像画は、これまでアルビを出たことがなかった作品で、もちろん今回が日本初公開となります。海で鵜狩りをするジョワイヤンの姿を描いたものですが、この頃既にロートレックの体は弱っており、長時間の制作に耐えることができませんでした。そのため、ジョワイヤンは60回以上も繰り返しポーズをとったといわれています。死の前年にやっとの思いで描き上げたこの1枚は、見事な出来であると同時に、ロートレックとジョワイヤンの深い友情を雄弁に語りかけてくれます。

MMFの視線

 幼い頃からの友人で、その死の瞬間までロートレックを支え続けたジョワイヤン。今回の展覧会でその存在を初めて知ることになりましたが、展覧会場全体にふたりの温かな交流の証が溢れていました。そしてその展覧会の掉尾を飾るかのように登場した堂々たる《モーリス・ジョワイヤン》。かつてモンマルトルで画家が制作したポスターのような華やかさはありませんが、その激しく重々しいひと筆ひと筆に、ロートレックの親友に対する感謝の気持ちが込められているような、とても感動的な1枚でした。

[FIN]

Update : 2011.12.1
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三菱一号館美術館コレクション<U>トゥールーズ=ロートレック展Albi-Paris : Maurice Joyant, l’héritage de l’artiste

  • 会期
    2011年10月13日(木)
    〜12月25日(日)
  • 会場
    三菱一号館美術館
  • 所在地
    東京都千代田区丸の内2-6-2
  • Tel
    03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • URL
    美術館
    http://mimt.jp/
    展覧会
    http://mimt.jp/lautrec2011
  • 開館時間
    水曜日・木曜日・金曜日 10:00-20:00
    火曜日・土曜日・日曜日・祝日 
    10:00-18:00
    *入館は閉館の30分前まで
  • 休館日
    月曜日
  • 観覧料
    一般:1,300円
    高校・大学生:800円
    小・中学生:400円

MMFよりチケットプレゼントのお知らせ

  • 銀座MMFにご来館いただいた方先着で「トゥールーズ=ロートレック展」の無料観覧券を1枚プレゼント中です。「MMFウェブサイトを見た」とおっしゃってください。

こちらもおすすめ!

  • 三菱一号館美術館の高橋明也館長監修、本展担当学芸員の杉山菜穂子氏執筆の『もっと知りたいロートレック』(東京美術刊)では、ロートレックの生涯とともに、その代表作を時系列でたどります。ロートレック好きの方にも、そして今回の展覧会で初めてロートレックに興味を持った方にも最適な1冊です。

 

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