パリの版画工房 イデム Idem, l’atelier de lithographie à Paris

イデムの印刷風景と そこで刷られる作品たち

▲石版画を制作するアーティストに開放された工房内のスペース

 現在イデムで刷られている作品は、現代作家のアート作品だけでなく、企業から受注する商業向けの作品やグリーティングカードなど、あらゆる分野をカバーしています。MMFの取材当日に印刷が行われていたのは、マティスが装飾を手掛けたことで有名な南仏ヴァンスにあるロザリオ礼拝堂で購入できるポストカード。マティスと深いゆかりを持つムルロー工房が受けていた注文を、現在の工房が今も受注し続けているということです。こうして昔ながらの顧客が絶えずにいるのは、イデムでリトグラフの印刷技術の伝統が今も変わらず脈打っている証です。

▲ニコラ・ヴィアル(Nicolas Vial)によるパリの有名パティスリー、ピエール・エルメのグリーティングカードのデザイン

 イデムでは直接石に描いて版を作る伝統的な石版の作品、そしてパソコンのデータからフィルムに起こし、そのフィルムをリトグラフのアルミ版に焼き付け、印刷する作品と、依頼者の要望に応じてさまざまな印刷を行っています。リトグラフは元来石版を使用し水と油の反発性の原理を利用した印刷技術のことをいいますが、近年では石版の代わりにアルミ版、亜鉛版などを使用することが一般的となっています。時間とテクニックを要するのは、やはり石版を使用した伝統的なリトグラフの印刷です。石版画は材料、職人の技術とともに、その希少性から最近ではごく珍しいものとなっています。実際ここイデムにおいても、石版画に初めて挑戦するというアーティストが大半を占めています。

▲プレス機の調整を行うイデムのリトグラフの職人

 研磨剤で表面を磨かれては何度も新しい作品が描かれ、プレス機の下を幾度となく潜り抜けてきた石版には、それぞれの表情があり、ひとつとして同じものは見つかりません。アーティストはそうした個性の異なる石版の中から自分自身と相性のよい石を見つけ出し、愛着を持って何度も同じ石を使用することが多いそうです。映画監督として有名なデヴィッド・リンチ(David Lynch/1946-)氏はこの工房で石版画の制作を行うアーテ

▲工房のエントランスに並べられている大小大きさの異なる石版

ィストのひとり。時にあえて表面の欠けた石版を使用するという彼の作品では、石の個性とアーティストの個性が心地よく共存しています。
 熟練した職人が1枚1枚丁寧に仕上げるリトグラフは、単色から多色使いまで温かみのある質感が特徴です。間近で見るとほかの印刷技術には出すことのできない独特の色や風合いを感じることができ、たちまちその魅力にとらえられます。イデムで生み出されるリトグラフ作品は、デッサン、写真、そして楽譜といった珍しいものまで、芸術の分野を問いません。伝統と新しさを内包したそれらのリトグラフは美術館や個人のコレクション、さらに展覧会で展示される芸術作品となり、リトグラフの新たな可能性を暗示しながら世界中の人々を魅了しています。

Update : 2012.3.1
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イデム(工房) Idem

イテム(ギャラリー) item

 

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