世界のミュージアム情報やアート、デザイン情報を発信する場として生まれ変わったMMM記念特集「世界の美術館」からの第2弾はルーヴルを取り上げます。昨年12月のオープン以来、来館者から高い評価を受けているルーヴル美術館の分館、ルーヴル・ランス。今回は館長のザビエ・デクト氏から、MMMへのメッセージを贈ってくださるとともに、ルーヴル・ランスのプロジェクトの裏側、また今後の企画展など、MMMからの8つの質問に答えてくださいました。
日本の皆さんにルーヴル・ランスを知っていただきたいと強く思っています。建築家が日本人ということだけでなく、ルーヴルに魅了された日本人の方々にとって、ここはパリのルーヴルとはまったく異なる美術館だからです。ランスに来るだけではルーヴルを観たことにはなりませんが、もはやパリに行くだけでもルーヴルを観たことにはなりません。なぜならここランスでは、作品に対してパリとは異なる眼差し、異なるヴィジョンを持っているからです。今ルーヴルがふたつの場所にあること、またその補完性を理解する必要があります。MMMには日本の皆さんにルーヴル・ランスの存在自体、そしてその目的を知ってもらうための手助けをしてもらえると期待しています。
ザビエ・デクト館長(以下X.D.):それには幾つもの重要な理由がありました。第一に美術館へのアクセスが不便な人々、また、美術館に行く習慣のない、文化になじみが薄い新しい観客に出会うことが目的でした。フランスでは長い間、普段美術館へ行くことのない人を美術館へ呼び寄せようと試みていましたが、それがとても困難なことだと分かっていました。そこで人々の足を美術館へ向かわせるよりも、美術館から赴こうという発想に転換したのです。この見地に立って考えたところ、歴史、経済、社会的な理由で文化から遠ざかった状況にあったのがランスの人々でした。
ふたつ目にほかの候補都市との関係があります。ランスのほかに、ブローニュ、カレー、ヴァランシエンヌ、アラス、アミアンといった5つの都市が候補にあがりましたが、ランスはこのうち唯一美術館のない都市でした。新しい文化施設という着想から、既に存在する美術館を、言ってみれば「抑圧」する施設になってはいけないことが重要でした。
3つ目の重要な要素は、用地となる土地があったことです。この22haの炭鉱跡は市街地の中心にあります。ほかの候補都市では、設備を整えるのがランスに比べて複雑な場所ばかりでした。
最後の理由として、ランスの経済と観光の発展の目的があります。ランスは地理的に高速道路の交差点に位置し、事実上ヨーロッパ北部の人々は皆、ヨーロッパ南部へ行くのにここを通過します。またランスを発着する鉄道のTGVなどもあり、インフラも関係しています。シャルル・ド・ゴール空港からは電車で40分ほどです。こうしたさまざまな点で、ランスはまたとない場所でした。
X.D.:第一にSANAAはプロジェクトのエスプリ、とりわけ壁を取り除き、できるだけ多くの作品を一緒に展示したいという構想を完璧に把握していました。そこで彼らは最終的に、思いのままの作品を展示することができる、プロジェクトの趣旨に完璧に沿った大きな箱状のふたつの展示ギャラリーを提案しました。建築が作品の展示方法に影響を及ぼすことがなく、私たちが自由自在に美術館として使用できる設計でした。
ふたつ目のポイントですが、SANAAによる今回のプランは、パリのルーヴルの見取図から着想を得ており、ふたつの翼を持った大きな四角形という基本形を受け継いでいます。パリのルーヴルの四角い中庭とふたつの翼部分の代わりに、ここではエントランスホールとふたつの大きな展示ギャラリーがあり、実際に見てみると、ルーヴルの図面に由来した設計図なのが分かります。またSANAAは周囲の建築にも注意を払っていました。彼らは炭鉱都市の建築に美術館を溶け込ませることを提案した唯一の候補者でした。周囲の集合住宅地の建築がそうであるように、彼らはこの細長い建築を提案したのです。
そしてSANAAは「庭園美術館」の着想を完璧に理解しており、彼らのプロジェクトは唯一、庭園と非常にうまく一体化していました。美術館の中心に位置するエントランスの透明性が、私たちの望む美術館の姿を見事に表しています。
Update : 2013.6.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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