全3章、計109点の作品を通じて、「ルネサンスの万能人」レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci/1452-1519)の業績とイタリアの地に花開いたルネサンス美術の魅力を伝える本展は、まず「アンブロジアーナ図書館・絵画館」の紹介から幕を開けます。
アンブロジアーナ図書館・絵画館は、1607年、ミラノの大司教フェデリーコ・ボッロメオ枢機卿(Federico Borromeo/1564-1631)のコレクションをもとに設立された、西洋最古の図書館のひとつです。
ボッロメオ枢機卿が自らの審美眼に沿って収集したコレクションを寄贈したのは、併設の美術学校で学ぶ生徒たちと市民の啓蒙のためでした。また、美術を愛する枢機卿は、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に描かれた壁画《最後の晩餐》や当時ミラノにあった《岩窟の聖母》(現在はロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)など、レオナルドの傑作があまりに劣化していることを嘆き、当時の画家たちに模写するようにも命じていました。そしてそれら模写作品は、アンブロジアーナ図書館に寄贈され、イタリアルネサンスの美の精神を後代に伝えるために大いに貢献したのです。
第1章では、ヴェスピーノ(Vespino/17世紀前半に活動)の手による《岩窟の聖母》の模写をはじめ、通称「レスタ冊帖」、または「携帯型美術館」と呼ばれる素描帖から15葉が展示されています。
絵画だけでなく、建築、科学、解剖学と、生涯にわたって幅広い分野に関心を示したレオナルド。「ルネサンスの万能人」とは、まさにこうしたレオナルドの多才さに対する称号です。その一端が垣間見られるのが、第2章で展示されているアンブロジアーナ図書館所蔵の『アトランティコ手稿』。1,118枚の紙葉からなるもので、レオナルドがまだ若き芸術家だった1478年頃のものから、亡くなる直前までの素描や覚書が含まれており、「レオナルドの思考の迷宮」を紐解く貴重な資料です。
本展にはその『アトランティコ手稿』の中から、22枚の手稿が出品されています。遠近法や光学、幾何学といった絵画に関わる分野はもちろん、建築や軍事施設、さらには飛行機械に至るまで、レオナルドの自由で大胆なアイデアが直筆で書き留められています。また、レオナルドは左右反転した「鏡文字」を書いたことでも知られていますが、これは、生まれつき左利きだったレオナルドが考えついた、素早く書くための工夫だったとか。この鏡文字を間近で見られるのは、またとない貴重な機会です。
3章では、十数点しか現存しないレオナルドの真筆の油彩画の中の1枚《音楽家の肖像》が展示されるほか、レオナルドの影響を受けた「レオナルデスキ」と呼ばれる画家たちの作品も見ることができます。
当時、有名画家は工房を持ち、複数の弟子を抱えて寝食をともにしながら、大規模な注文をこなしていました。もちろんレオナルドも工房を持っていましたが、
その規模は師であるヴェロッキオ(Andrea del Verrocchio/1435頃-1488)やラファエロ(Raffaello Santi/1483-1520)らの工房と比べると、とてもささやかなものだったといわれています。ラファエロが50人もの弟子を抱えていたのに対し、レオナルドの工房で同居する弟子の数はおよそ5人から10人。それは、レオナルドの技法や画面構成、主題の解釈がいかに独特であったかを物語る一面でもあります。
画面の明暗を輪郭線ではっきりと分けずに、明暗や色調の微妙な階調で形を表す「スフマート」、遠くのものを青色でぼかして描く「空気遠近法」などの技法を“発明”したといわれるレオナルド。真筆に加え、レオナルデスキの作品群からは、自らの道を邁進し続けたレオナルドの独自性をより深く理解することができます。
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