第3章では、ボートやヨットを描いた作品を集めています。水辺の風景を描く際に、画家が船をモティーフにすることは珍しくありませんが、この章の展示では船そのものではなく、水上レースやボートでのプロムナードといった船のレジャーに焦点があてられているのが特徴です。中にはドニ(Maurice Denis/1870-1943)やボナール(Pierre Bonnard/1867-1947)の作品のように、見る者をあたかも船に乗っているかのような気分にさせる、ヨット上の目線で描かれた作品も見られます。
アメリカ人画家のサージェント(John Singer Sargent/1856-1925)は、フランスでアカデミックな美術教育を受け、上流階級の人物を描く肖像画家として名を馳せました。そのキャリアからも印象派とは対極の位置にいる画家と思われがちです。しかしサージェントはジヴェルニーのモネを訪れ、そこで自らも屋外制作を行うなど、印象派の影響を受けた画家でした。この作品は軽く揺れるようなタッチで描かれた前景の柳や、ボートの上で眠る女性のドレスにきらめく大胆な筆致の木漏れ日に、モネからの強い影響をうかがうことができます。
最終章では水浴をモティーフにした作品がテーマです。ここでは当時のレジャーの様子をクローズアップする以外に、水浴中の裸体がモダンな表現で描かれている点に注目します。「裸体」は西洋絵画のもっとも古典的な題材であり、絵画の習作を行う際の必須のテーマでした。本来アトリエ内でプロのモデルを使い裸体の習作を行うところ、印象派の画家たちは夏のヴァカンス地をアトリエ代わりに、水浴を楽しむ人々を思うままに描きました。とりわけセザンヌやルノワールは、戸外の水浴を描いた作品を多く残しています。彼らが描出する自然の光に照らされた裸体の自由な表現は、絵画の本質に革新をもたらし、美術の近代化の大きな道しるべとなったのです。
チェコ出身の画家クプカ(Frantisek Kupka/1871-1957)は、20世紀の抽象画家として知られていますが、キャリアの初期に描かれたこの作品には、印象派以上に印象派らしい表現が見られます。ほかの水浴の作品と比較して決定的に異なるのは、水浴をする人物の足が、水面下で大胆にデフォルメされて描かれている点です。知覚した風景をそのまま忠実にカンヴァスに写すという印象派の根幹となるコンセプトを踏襲した、非常に興味深い作品です。
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Update:2013.8.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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