モネの船上のアトリエのアイデアは、画家のドービーニー(Charles-François Daubigny/1871-1878)をモデルにしたものでした。モネは川に自身の船を浮かべ、水面上からヴェトゥイユの風景を描きました。1900年から描かれたこれらヴェトゥイユの連作は、とても興味深い作品群です。なぜなら画面の上半分を占めるヴェトゥイユの日中の風景は、作品ごとにそれほど大きな変化はないものの、画面の下半分の水面の反射は、それぞれすべて異なっているからです。これはモネが現実の世界よりも、水の反射の世界に興味を持っていたことを物語っています。水面はモネにとってより自由で大胆な表現が可能なモティーフでした。
シスレーは春夏秋冬と、生涯においてセーヌ河の四季を描き続けた画家です。彼の連作のコンセプトは、この作品が端緒となりました。洪水をモティーフとした連作は、同じ風景をとらえたものですが、建物のファサードを映し出す水面の表現によって、増水時と減水時をそれぞれ描写しているのが分かります。モネの「ルーアンの大聖堂」の連作は有名ですが、連作のアイデアは実はシスレーが先だったのです。
シニャックとスーラは、1886年の最後の印象派展に参加した画家です。彼らは船、港、釣り、海と、印象派の先駆者と同じテーマを中心に作品を描きました。下絵(エスキス)は典型的な印象派の画風で描かれましたが、本番の作品は非常に綿密な作業の賜物である、点描画法によって仕上げられました。このシニャックの《旗で飾られた小帆船》もその作例です。
モネは1908年に旅行で妻のアリスとヴェネツィアを訪れました。彼はダリオ宮、ドゥカーレ宮殿、コンタリーニ宮をモティーフに絵筆をとりましたが、これらの作品からは、主題の逆転が見てとれます。モネの興味の対象は、一貫して水、そして水の反射でした。宮殿そのものに興味があるのではなく、宮殿を映す水面、そして宮殿に反射する水の光が主要なテーマとなったのです。これらの作品を並べて鑑賞すると、水平線の位置が徐々に高くなっているのが分かります。モネの作品では、しだいに水面が大きなスペースを占めるようになり、睡蓮を描いた作品では、ついに水平線すらなくなり、水面のみがモティーフとなりました。モネは現実世界から逃避し、水の反射の世界を描くことに没頭したのです。
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Update:2013.9.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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