ルノワールがこのカーニュ=シュル=メールに自宅を構えたことは、ルノワールを慕う多くの芸術家やコレクターたちがこの街を訪れるきっかけにもなりました。有名な画商デュラン=リュエル(Paul Durand-Ruel/1831-1922)や、モネ(Claude Monet/1840-1926)、マティス(Henri Matisse/1869-1954)、ピカソ(Pablo Picasso/1881-1973)など、名立たる顔ぶれがルノワールの生前にこの家を訪ねています。また洋画家、梅原龍三郎(1888-1986)もカーニュのルノワールを訪ねた画家のひとりでした。
当時、ルノワール邸の訪問者は、南側のファサード正面にある階段からテラスへと上がり、直接サロンへと入っていました。以前は美術館の入り口は建物の裏手に位置していましたが、リニューアル後、美術館の来館者も生前のルノワールに迎えられるかのように、南側から入ることができるようになりました。
館内に展示されている全ての家具は、ルノワールが実際に所有していたものです。家具の配置は資料をもとに、ルノワールの生前の状態に可能な限り忠実に配置し直されました。また、色褪せてしまっていたサロンや食堂の壁布は、裏側に隠れ保存されていた色彩を手がかりに、新しく同じものを作り直すなど、丹念な修復がなされています。当時のコンロを備えたキッチンは、今回のリニューアルを機に初めて一般公開となりました。
全部で約50点ある絵画の展示作品のうち、ルノワールのオリジナル作品は14点。息子クロードの肖像や、カーニュの庭を描いた風景画、オルセーから寄託された《大水浴図》(1903-1905年)など、ルノワールのカーニュ時代を証言する作品の数々です。今回の改装によって、これまでサロンや食堂に展示してあった絵画作品は、全てほかの部屋に移動されました。実際、生前のルノワールはサロンや食堂を自身の絵で飾ることはなかったといいます。
ルノワールの家で暮らした画家のアルベール・アンドレ(Albert André/1869-1954)の作品からは、ルノワールの制作風景や家族の団欒の日々を垣間見ることができます。またラウル・デュフィ(Raoul Dufy/1877-1953)の描いた《ルノワールの作品による、ムーラン・ド・ラ・ギャレット》はルノワールの名画にオマージュを捧げた作品です。
サロンの上階では、ルノワールや妻アリーヌの部屋、息子クロードの部屋など、ルノワール家のよりプライベートな空間が公開されています。北側の庭園に面した大きな窓のある大アトリエでは、以前展示されていたルノワールの絵画のレプリカが一掃され、イーゼルや車椅子など、ルノワールが実際に使用した品のみが展示品として残されています。来館者は第3者による演出にとらわれることなく、画家の魂の宿るオリジナルの品々に、純粋に思いを馳せることができます。
次ページでは、新設された彫刻展示室と
学芸員からの皆さまへのメッセージをご紹介します。>>
Update:2013.10.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。