現在の常設展示は「Poetry and Dream」「Transformed Visions」「Energy and Process」「Structure and Clarity」の4部構成で、テーマごとに20世紀のアートの歴史を巡るもの。現在第1部のみ利用可能なモバイル・アップ(アプリ)は、スマートフォンにダウンロードして、ヘッドフォンがあればギャラリー内で利用できる。また、日本語版はないのだが、マルチメディア・ガイドは2階で4ポンドでレンタル可能。これはオーディオ・ガイドの域を超えていて、アーティストの制作中の映像を観ることができたり、アーティスト自身が作品の説明をしてくれたり、アーティストが影響を受けた音楽を聴くことができたり、批評家のコメントを聴くことができたり、そしてゲームをすることもできる。
4部構成の常設展はコントラストに富んで初心者にもとてもわかりやすい。例えば第1部のRoom 2では、シュルレアリズムに影響を受けた作家たちが好きな対象を思い思いに描いていたのに対して、1930年代には性がオープンなものとしてアートの対象となり、ピカソやマティスが抽象的なヌード油画、彫刻を制作した。それに対してリアリズムの画家たちは現実を忠実に描くことに専念する。第一次大戦中のアートは、ピカソが裸婦を描いていたり、モネが睡蓮を描いていたり、戦争は芸術のテーマとして取り上げられていないことがわかる。
第2部では第二次世界大戦前後の視点の変化を考察する。Room 7では、日本人写真家石内都の《絶唱・横須賀ストーリー》(1977年)を展示。石内が生まれ育った第二次大戦後の痕跡の残る横須賀を撮影した作品だ。ほかにもレオン・ゴルーブの《ヴェトナム2》(1973年)に見られるように、第二次大戦後は記録的テーマの作品が現われる。2部の最後の展示室はゲルハルト・リヒターの「ケージ・シリーズ」。アメリカを代表する現代音楽家、ジョン・ケージの音楽を聴きながら制作されたという大きな油絵が6点。すべてプライヴェート・コレクションであり、「テート・ギャラリーには長期貸し出し」とあるが 、いつまで鑑賞できるかは不明。リヒターはケージの環境音楽と静けさに対する考え方に長らく興味を持っており、ケージの「I have nothing to say and I am saying it」ということばを何度か引用している。直感やランダムさを拒否し、大きな骨組みの中に偶然性を盛り込み作曲するといったケージの作風は、リヒターが高く評価するところであり、彼に大きな影響を受けている。ジョン・ケージの曲はこちらのリンクから購入可能。事前にダウンロードして聴きながら作品を鑑賞したら、リヒターが何を考えて作品を作ったか、よりよく理解できるかもしれない。マルチメディア・ガイドからも視聴可能だ。
第3部では、従来の木、石膏、石、金属といったアート材料に対して、日常的に見受けられる材料が出現する。マリオ・メルツの《Lingotto 1968》はその好例で、蜜蝋と枝箒の枝と鉄鋼が使われている。
さらに第4部に進むと、アートの素材として既製品が現われる。テートが保有するマルセル・デュシャンの《泉》(1917年、レプリカ1964年)は残念ながら貸し出し中で展示されていないが、Room 3のダン・フレヴィンの蛍光灯を使った作品は、さらに新しい時代の既製品アートである。このように、20世紀モダンアートの系譜を見て取れる、非常にわかりやすくて充実した常設展示となっている。
文・写真:袴田早矢香(Sayaka Hakamata)
ロンドン在住、建築設計事務所勤務
Update:2013.11.1
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