ラーションが1901年に移り住み、画家の終の住処となったスンドボーンの家は、当時の内装をそのままに、現在は記念館としてその扉を開いています。本展の最後のセクションは、そのスンドボーンの家のインテリアや装飾がテーマ。展示室の赤い壁と格子窓の装飾は、今もスンドボーンに残るラーションの家をイメージしたもので、画家の色彩豊かな暮らしを体感できる工夫がなされています。
展示作品はラーションの家の室内風景を描いた作品が中心です。また、それらの作品の中に描かれている実際の家具も同時に展示されています。オレンジや赤、青、緑といった鮮やかな色彩が印象的な内装は、スウェーデンの家具メーカー、IKEA社のデザインのインスピレーションの源にもなっているとのこと。約100年前のスウェーデンの田舎家のインテリアが、今日の北欧の家具デザインに影響を与えていることに驚かされます。
ラーションが家族の日常を描いた作品は、贅沢とは異なる豊かさに包まれています。手入れの行き届いた室内に妻や無邪気な子どもたちの日々の様子が描かれ、平凡な空間で営まれる穏やかな暮らしこそが至福なのだという画家のメッセージが伝わってきます。
ラーションが家族を描いた作品で特徴的なことは、両親と子どもたちが家庭内で隔たりなく暮らしている点です。これは同時代のパリのオスマン様式の高級アパルトマンの暮らしとはたいへん対照的です。当時パリのアパルトマンではサロンで子どもたちが遊ぶことは許されず、子どもと大人のスペースが明確に区別されていました。ラーションの家では家族全員が共同生活をし、家庭内のあらゆるスペースを子どもと大人が共有しています。スウェーデンの人々はこうしたラーション家のあり方に魅了されたのではないでしょうか。当時フランスでこの画集がそれほど成功しなかったのは、フランスがまだモダンな生活様式に追いついていなかったことが理由かもしれません。
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Update:2014.5.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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