オーヴェル=シュル=オワーズのドービニーの住居兼アトリエは、土地を購入した翌年の1861年に完成しました。建物の設計は友人であり建築家兼画家の、ウディノ(Achille Oudinot/1820-1891)が担当。ドービニーは、「友人のコローがオーヴェル=シュル=オワーズをとても美しい場所だと賞賛したことが、この地に家を建てる決め手になった」と後に回想しています。
建物が完成するとドービニーの友人の画家たちは、アトリエの内部を自分たちの手で彩ることを提案しました。コロー、ウディノ、そして風刺画家として有名なドーミエ(Honoré-Victorin Daumier/1808-1879)など、ドービニーと親しくしていたプロの画家たちが、プライベートで彼のアトリエの装飾を手掛けたのです。屋外で描くことができない雨の日を中心に、彼らは200u近い建物の内部の装飾に取り組みました。その完成までに実に10年以上の歳月が費やされたといいます。中でも友人のコローは壁画制作に夢中になり、持ち主であるドービニーがアトリエを思うように使用できなかったという本末転倒なエピソードを残しています。
現在ドービニーの家で一般公開されているのは、エントランス、食堂、ドービニーの部屋、娘セシルの部屋、そしてアトリエの計5部屋です。それらの部屋には友人のアーティストをはじめ、息子のカール(Karl)や娘のセシル(Cécile)といった、ドービニーの愛した人々の思い出やエピソードが随所に刻まれています。
ドービニーの部屋では一族についての資料のほか、油彩、水彩画、デッサン、エッチング作品などを展示。娘のセシルの部屋は、花冠や、ピアノ、鳥かご、ラ・フォンテーヌの寓話など、天井や壁全体に施されたロマンチックな装飾が見どころです。それらは1863年に彼女が20歳になったのを記念し、子ども時代の幸せな思い出をテーマにドービニーが描いたもの。ドービニーの温かい家族愛が伝わってくる空間です。
そして見学の最後を飾るのは、コローとドービニーが共同で手掛けた壁画が、圧倒的な存在感を放つアトリエです。壁画のテーマは、コローが1825年に旅したイタリアの風景。静かな湖面と羊の群れを連れた男女が描かれた画面は、バルビゾン派らしい牧歌的な情緒に溢れています。
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Update : 2014.8.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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