塩田博物館の3つ目のセクションは、前身の伝統衣装博物館のコレクションを中心にした内容です。19世紀当時の人々が身にまとった色鮮やかなセレモニー用の衣装や、陶器や置物など装飾品のコレクションが充実しています。また1870年代の塩商人の家の内部の様子が再現され、赤い漆喰で塗られた家具の一式など、地元特有の文化を発見できます。
こうしたバ=ゲランド塩田一帯の独特の衣装や、製塩の文化は、遠方からやってくる人々にはどこか異国情緒を感じさせたといいます。興味深いのは、それら塩田の風景にインスピレーションを受けた芸術家たちがいたことです。
19世紀当時の芸術界では異国の文化を描くオリエンタリスムが流行しており、鉄道が開通したこの地にも、外国へと赴く代わりに珍しい絵画のモティーフを求めて芸術家たちがやってきました。バルビゾン派の画家コロー(Jean-Baptiste Camille Corot/1796-1875)もそのうちのひとりです。頭に大きな塩の器を載せて歩く女性の姿や、塩職人の独特の文化は、アーティストの創作意欲を掻き立てたのでした。
博物館のリニューアルにあたって取り組んだ塩の洗浄機の復元プロジェクトは、日本人の文化財保存の考えからも着想を得ました。日本には形あるものだけでなく、伝統的な技を文化財として保護する無形文化財の制度があると聞いています。有形の文化財だけでなく、それらを生み出す技術にも同等の価値があるという点に共感し、フランス文化省との話し合いの結果、この洗浄機の復元が実現しました。使用されていない古い機械を展示ケースの中に展示しても、その仕組みについて詳しく理解することはできません。それよりも機械を作り直し、その過程で知り得た機械のノウハウを資料として紹介することが有意義だと考えたのです。また機械の復元は、来館者が入り組んだ形の機械の間近までやって来てその構造を観察し、実際に触れることができるという利点もあります。
最後に、塩は万国共通のテーマです。日本の皆さんにも、きっと展示を楽しんでいただけると思います。ぜひバ=シュル=メールの塩田博物館へお越しください。
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Update : 2014.11.1 文・写真:増田葉子(Yoko Masuda)
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