4つに仕切られた箱。上段には手首とリンゴ。しかし、下段は?
右下の棚には切り取られた紙が貼られ、中身は隠されている。そして左下にあるのは、名付けられない形。何だか分からない。つまり、モノそのものを表しているんです。本来、世界は名状しがたいモノ、わけのわからないモノに満ちている。だけれど、人間はそれに名前と役割を与えて、世界を飼いならして日常生活を送っている。マグリットは、モノと名前・役割を切り離すことで、生々しい直接的な「モノ」として立ち現れる世界を描いたんです。
1930年代、マグリットは「問題と答え」という方法を編み出します。事物を「問題」として設定し、それに対する「答え」と組み合わせて作品にするのです。この作品では、「窓」が問題で「風景画」が答え。窓は、外の景色を見るのに必要でありながら、中と外を隔てる存在である、という両義的なオブジェです。一方、この風景画は、室内に存在していながら、描かれている風景は外の風景と連続している。つまり、風景画は室内にも外界にも属している。そういう両義的な存在であるという点で、窓と似ている。それがゆえに、「問題と答え」となっている、というわけです。
1920年代、30年代と人々を不安にさせるような不条理なイメージの作品を描いてきたマグリットですが、第二次世界大戦が起こると画風を一変させます。ナチスの時代になり、自分の描いてきた狂気や不条理といった世界が現実のものとなってしまったとき、それに抵抗するように、それまでとは大きく異なる作品を描くようになります。いわゆる「ルノワールの時代」です。印象派の筆触や色彩を用いた明るい絵で、1943年から47年までこのスタイルで描き続けます。この作品では、童話風のイメージを印象派風の色彩と筆触で描いています。
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