印象派風の作品が、ブルトンをはじめとするシュルレアリストたちに批判されたこともあって、マグリットはさらに違うスタイルを模索します。そして、パリでの初個展(48年)のために30点くらいの作品を制作しました。漫画やカリカチュアを引用した人物像、激しい筆触、けばけばしい色彩──マグリットはそれを、フォーヴ(野獣)をもじって「ヴァーシュ(雌牛)」と名づけました。結局、作品はまったく売れず、妻のジョルジェットからも「前のほうがいい」と言われてしまいます。この時代の作品、私は好きですが、その後、生前は公開されず、誰にも理解されなかったのです。
「ヴァーシュ」の後、マグリットは再び、戦前のスタイルに回帰します。戦前との最も大きな違いは、イメージのスケールが大きくなった、ということ。戦前の作品では、日常の中に何か異質なモノが混じっている、という世界が描かれていましたが、戦後は、世界全体が変わっている、という場合が多いのです。昼夜の光景が同居する《光の帝国U》などは、その好例です。
また、洗練された作品が多く、挑発的な部分が少なくなったのも戦後の特徴のひとつです。《美しい言葉》も非常に洗練された一枚ですね。「バラ」という問題への答えとして、「香り」が描かれています。
Eric Decelle, Bruxelles
©Charly Herscovici / ADAGP, Paris, 2015
今回、13年ぶりに日本でのマグリット展が実現しました。これだけの規模の展覧会は、もうしばらく開かれないと思います。世界10カ国以上から代表作約130点が集まり、決定版といえる展覧会になりましたので、ぜひ、見に来てください。
南雄介(国立新美術館副館長)
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。