「クレーの作品には、よく見れば分かるような秘密の組み込み方をしたものがあります。」と語る石川氏。今回の展覧会では、クレーの秘密を見つけるための手がかりとなるよう、いくつかの作品に解説のパネルが出されているとのこと。そうしたヒントをたよりに展覧会を見ると、確かにクレーの秘密が見つかりました。ここでは、その例を紹介します。
クレーの「秘密」を“難易度別”に紹介する今回の展覧会。その第1章、つまりいちばん分かりやすい「秘密」を集めた章のテーマは「何のたとえ?」です。クレーが作品に多く用いた記号的モチーフのうち、「フェルマータ 」と「矢印」に焦点が当てられています。フェルマータは音符や休符を長く延ばすことを意味する音楽記号。曲の最後に置かれることが多いことから、「終止符」としても機能し、クレーは「目」のようにも用いたそうです。
1枚の絵を切って、いくつかの作品にしたてるのは、クレーがときどき用いた手法です。今回の展覧会に出品された《窓辺の少女》と《墓地》も、もともとは大きな1枚の絵であったものを切り離したもの。会場には、この作品を再構成したパネルが展示されていて、この2点のほかに少なくとも4点が独立した作品として仕上げられたのだということが分かりました。これも、分かりやすい「秘密」のひとつです。
一見、ひとりの女性のヌードを描いただけの作品と思える《裸体》。よく見ると、胸のあたりにもうひとり、横たわった小さな人物像が描かれています。じつはこれは、作品の下塗りの層に描かれたもの。クレーはその絵をその上から塗り込めながら、完全に塗りつぶすのではなく、よく見ればぼんやりと見える、というふうに仕上げたのだそうです。作品のそばには赤外線写真が展示されていて、下の絵がどのようなものであったかが分かります。
クレーは生前に自作の作品目録を制作していました。その中で、「特別クラス(Sonderklasse)」と分類された作品は、例外的に高値を付けたり、非売としたりしていた愛蔵品で、今回の展覧会には40点が出品されました。特別クラスの作品には、隅っこに「S. Cl」の書き込みがありました。
簡単な秘密から、解けない謎まで──。クレーがちゃめっ気たっぷりに仕込んだ「しかけ」や「たくらみ」を存分に楽しめる展覧会です。ぜひ、足をお運びください。
[参考]artscapeトピックス
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