真珠貝・タブレットリー美術館のガイド付き見学は、まずドミノ工房から始まります。歴史を感じさせる機械類が並ぶこの工房は、メリュのドミノ職人が実際の工房をそっくり美術館に寄贈したもの。ここでは現在も伝統を受け継ぐ職人がドミノを制作していることもあり、卓上の道具、機械、無造作に散らばるドミノなど、伝統工芸の息づかいが聞こえてくるような空間が広がっています。ガイド見学中は職人の姿はありませんが、ガイドによって実際にドミノの機械を使用したドミノ作りのデモンストレーションがあり、目の前で伝統工芸の技術を観察することが可能です。
伝統的なドミノの原料となるのは、牛の後ろ足の骨の一部。小さく切断した骨を漂白し、黒檀の板と重ねあわせて糊で接着し、鋲を打ちます。骨側の面にサイコロに似た目が彫られ、仕上げに黒の塗料が塗られて完成です。全部で28段階あるドミノ作りのすべてのステップにおいて、さまざまな職人の熟練した技が必要とされました。そうして手間と時間をかけて丹念に製造されたドミノは、19世紀に高級品として市場に出回ったのです。プラスチック製のドミノとは異なり、この工房で作られるドミノは、工芸品としての高い価値があることを肌で感じることができます。
ドミノ工房、ボイラー、蒸気機関の見学を経て、来館者はこの貝殻ボタンの工房へとやってきます。骨や象牙、鼈甲、木など、ボタンの素材にはさまざまな種類がありますが、もっとも一般的な自然素材はやはり貝殻でした。この工房の見学では、ニューカレドニアや日本など、遠い異国の海からやってきた貝殻が、細かいステップを経て美しいボタンに仕上がり、商品として市場に出るまでの過程が明らかになります。
メリュにおいて貝殻を使用したボタンの大量生産は、19世紀に始まり1960年代まで続きました。細かい模様が刻まれたボタンや、染料によって色付けされたボタンなど、メリュの工房で作られる貝殻製のボタンは、大量生産とはいえ職人の技が光る高級品の様相を呈しています。
見学中は圧搾空気によって稼動するように再構築された19世紀の蒸気機関の音が工房内に響きわたり、各製造段階の機械を当時のままに動かしています。貝殻をくりぬき、磨き、穴を開け、さらに装飾を施す作業工程は、いわば機械と職人の技術のコラボレーション。シンプルなものから細かい彫刻の施されたものまで、職人の技が込められたボタンは、ひとつひとつ宝石のような輝きを放っています。
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Update : 2015.9.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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