MMM:パレ・ド・トーキョーとムーリス現代美術賞のアーティストのコラボレーションなどは今までにありましたか?
ロワジ氏:まずパレ・ド・トーキョーは、新鋭のアーティストの受け皿となる大きな役割があります。そのためムーリス現代美術賞を獲った大半のアーティストたちとコラボレーションをしてきました。2013年度受賞者のネイル・ベルファ(Neil Beloufa/1985-)は3年ほど前にパレ・ド・トーキョーで大きな個展を開催しています。2012年度受賞者のアレクサンドル・シングも4年前にパレ・ド・トーキョーで個展を行いました。今後何が行われるかはわかりませんが、私たちがアーティストらと親しい間柄になるのはごく自然で、不思議なことではありません。しかしながら審査においてアーティストとの関係性が優位に働くことはありません。ただ言えるのはパレ・ド・トーキョーは表現するチャンスを備えた好奇心の中心施設であるということです。
MMM:ロワジ氏はカルティエ現代美術財団で学芸員をされていたことがあります。企業による現代アートのメセナ活動というのは、最近頻繁に耳にしますが、ロワジ氏はそうした傾向をどのように捉えられていますか? またなぜ現代アートなのでしょうか?
ロワジ氏:私がカルティエ現代美術財団にいたのは1990年代のことです。当時現代アートは企業にあまり興味を持たれておらず、社会にもそれほど浸透していませんでした。企業の世界では18世紀から20世紀の芸術への関心が著しかったのですが、ここ20年で大きな逆転現象が起こりました。今日では企業のトップにとって同時代のカルチャーというものが必要不可欠になっています。過去の美の知識だけでなく、自分自身の時代への呼応が不可欠ということです。アーティストの創造の探求と、企業が持つべき大胆さの関係性がきわめて重要になっています。時代を読み解くシステムの見直しは、創造を行う企業が改革を行うにあたってなくてはならないものです。企業にとって時代の流れの変化に乗る
ことは必須ですし、また企業は知識や教育活動など、情報を伝達する役目も持っていると考えます。新しい言語に扉を開くというのは企業の責務であり、とりわけ国際的な場においてそれは重要です。例えばル・ムーリスは世界中から顧客の集まる場所であり、元来新しい言語へと私たちを導いてくれる現代アートに興味を示しています。これはル・ムーリスが新しい言語に扉を開いているということなのです。
MMM:最後に、ムーリス現代美術賞は現代アート界でどのような役目を果たしているとお考えですか?
ロワジ氏:まず言えるのは、現在企業や美術館などが新たな賞を創設し、賞の数が増えてきているということです。10年ほど前までは、賞によって誰がより優れているかを判断することが不自然であり、ほとんど侮辱的であるとまで考えられていました。そのためアーティストも賞に参加することをためらう状況にありました。しかし現在は私たちが受け取る情報量が著しく増加したことで、賞は必要不可欠なものとなりました。今までにな
い新しい表現をもたらすアーティストの名を強調し、知る機会として賞が必要というわけです。ムーリス現代美術賞の役割というのは、アーティストに必要とされる場となり、アーティストがすべきことを手助けすることだと思います。つまり作品が優れていると褒めるだけのものではなく、未知の創造美をもたらすことに努める創造のための賞と言えるでしょう。
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Update : 2015.10.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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