バイヤール社の時計工場は、この博物館のちょうど正面にありました。当時の工場の経営は家族主義で、労働者たちの忠実さを保つ目的で彼らの住居の周辺には映画館などの娯楽施設も作られました。「バイヤール」の社名が付いたのは1907年のことですが、これはマーケティングの戦略で、中世の有名なフランスの騎士から名前がとられています。当館のバイヤール社の時計コレクションの展示室は、来館者がノスタルジーや思い出に浸ることのできる空間です。幼少時代に台所に掛けられていた時計、おばあちゃんの家にあった時計、目覚まし時計など、フランスの家庭内で日常的に使用されていた時計の数々をご覧いただけます。またバイヤール社はディズニースタジオと独占販売の契約を結び、ディズニーキャラクターの目覚まし時計を多く製造し、大きな成功を収めたことでも知られています。
続く展示室は家庭用の時計ではなく、科学分野の製品がテーマです。船で使用するレギュレーターや、工場の労働者の勤務時間を印字するタイムレコーダーなどを中心に紹介しています。実業家が外部からやってきてこの地にこれらの製品のための工場を設立できたのも、サン=ニコラには古くから続く精密機械製造の確かなノウハウがあったからこそでした。
▲時計製造博物館のエレーヌ・ドゥ・マゾブラン館長
©Pascal Diologent
2016年、時計製造博物館は19世紀のフランスのモードをテーマにした企画展を予定しています。時計はもちろん、洋服やアクセサリー、絵画、写真など、貴重な作品の数々が当館に貸し出される予定です。19世紀のモードの革命を、懐中時計の飛躍的な普及の歴史とともにご紹介します。一部の展示室はドレッシングルームと化し、来館者の方々は日傘や扇、さまざまな形の帽子など、当時のアクセサリーを身につけて写真撮影を楽しんでいただけます。また写真をテーマにした展示室もあり、印象派の時代の写真スタジオが再現されます。19世紀に発達した写真技術が瞬間をとらえたのであれば、当時活躍した印象派は束の間の時間を描くという新しい芸術を生み出しました。この企画展は2016年のノルマンディ印象派フェスティバルに参加していることから、展示の大部分は印象派の人物画に関連した内容となっています。
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Update : 2015.11.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)
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