三菱一号館美術館の高橋明也館長に、本展出品作の中から、お気に入りの作品を2点選んでいただきました。名作ぞろいの中から、悩みに悩んでセレクトした作品とは?
▲1629-30年 油彩・カンヴァス 48.5×43cm プラド美術館蔵
©Archivo Fotográfico, Museo Nacional del Prado. Madrid.
ベラスケス(Diego Velazquez/1629-1630)は、国王フェリペ4世(Felipe IV/1605- 1665)の寵愛を受けて、宮廷画家として活躍したスペインを代表する画家です。僕はもともとベラスケスが大好きなんですが、この作品はまた格別です。イタリアのローマに今もある、メディチ家の館が描かれています。驚くべきは、その光と大気の表現。印象主義がフランスで展開されるのは、この絵が描かれた200年も後のことなのに、すでに、このベラスケスの絵の中には、印象主義の画家たちが描こうとしたものがすべて描かれているからです。この時代、実景を目の前に、戸外で描くことはめったにないことでした。しかし、印象主義の画家たちが始めたといわれる戸外制作を、ベラスケスはすでに本作で試していたのかもしれません。作品の中央に描かれているのは、洗濯したてのシーツでしょうか。抑えた色彩の中にあって、清潔な白さでひときわ目を引くシーツが、人々の営みを感じさせ、この時代には珍しい、なんとも人間的な絵に仕上がっています。間違いなく、ベラスケスの描いた傑作中の傑作だと思います。
▲1874年 油彩・カンヴァス 44×93cm プラド美術館蔵
©Archivo Fotográfico, Museo Nacional del Prado. Madrid.
フォルトゥーニ(Mariano Fortuny y Marsal/1838-1874)は、日本ではほとんど知られていませんが、国際的な名声を博した19世紀のスペイン画家です。19世紀当時、その作品は欧米のコレクターの間で羨望の的となり、非常に高額で取り引きされました。そのため、彼は経済的な悩みにわずらわされることなく、描きたい題材を描くという、画家にとってはもっとも理想的な環境、つまり“自由”を手に入れることができたのです。本作に描かれているのは、画家の実の娘と息子が、邸宅の日本間のソファで休んでいる情景。画家はこの絵を義父に贈ろうとしていたそうです。おじいちゃんに孫の写真を送るかのように描かれた、とてもプライベートな絵なのでしょう。構図や色彩、モティーフにも日本美術の影響が強く感じられ、わたしたち日本人にとっても、非常に親しみやすい作品です。フォルトゥーニは残念ながら、この絵を描いた1874年にわずか36歳という若さで亡くなり、本作は未完成として残されました。しかし、未完成ながらも見る者を魅了してやまない、強い求心力を持った画家の最高傑作のひとつだと思います。実は僕は、いつかフォルトゥーニの展覧会をこの日本で開きたいと思っているんです。
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