Dossier special - 海外の特集

  • 1.ルーヴル美術館学芸員 ギョーム・ファル氏が語る本展のコンセプト
  • 2.フラゴナールの描く多様な官能と恋愛の世界 本展の注目作品1
  • 3.フラゴナールの描く多様な官能と恋愛の世界 本展の注目作品2

恋するフラゴナール展―粋人と放蕩者

フラゴナールの描く多様な官能と恋愛の世界
――本展の注目作品2

テーマ:道徳的な愛 フラゴナール 《かんぬき》

羊飼いの恋愛 フラゴナール 《目隠し鬼≫

1777年〜1778年頃 ルーヴル美術館所蔵
©Photo Rmn-Grand Palais (musée du Louvre) / Daniel Arnaudet

 「道徳的な愛」と題されたセクションに展示されている、ルーヴル美術館所蔵の《かんぬき》は、展覧会のカタログの表紙も飾っている本展の目玉作品です。アパルトマンの一室で若い男が部屋の錠をかけるのを、女が弱々しく妨げようとしている場面が描かれています。1782年にコデルロス・ド・ラクロ(Choderlos de Laclos/1741-1803)が貴族社会における退廃の恋愛を批判的に描いた小説『危険な関係』が大きな成功を収めるなど、18世紀末のフランスでは、放蕩を好む文化に弔鐘が鳴り響き始めていました。それと同時に、社会に新しいモラルが頭角を現すようになります。それは放蕩とは対照的に婚姻上の愛を説くというものでした。

▲フラゴナール 《羊飼いの礼拝》 1775年〜1776年 ルーヴル美術館所蔵
©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle

 フラゴナールの《かんぬき》は、支援者であったヴェリー侯爵(Le marquis de Veri/1722-1785)によって、フラゴナールの宗教作品《羊飼いの礼拝》と対をなす作品として注文されました。この宗教的な作品と官能的作品を組み合わせる行為は、いわゆる宗教への不敬の表れであり、ヴェリー侯爵の放蕩な性格をうかがい知ることができます。1785年にこれら2枚の作品が同時に競売に出された際、その奇妙な組み合わせに困惑が起こるのも無理はありませんでした。

▲フラゴナール 《箪笥》 1778年 ルーヴル美術館所蔵 ロスチャイルドコレクション
©RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado

 このフラゴナールの《かんぬき》は、1784年にモーリス・ブロ(Maurice Blot/1754-1818)によって版画作品として複製されます。そして1792年、フラゴナールとフラゴナールの義妹であり弟子でもあったマルグリット・ジェラール(Marguerite Gérard/1761-1837)のコラボレーションによって、《かんぬき》の新たな対となる版画作品が制作されました。それが《契約》と題された作品です。《契約》には《かんぬき》と同様の男女が、婚姻関係を結ぶために契約する場面が描かれています。1778年にフラゴナール自身が制作していた《箪笥(たんす)》という版画作品では、男が部屋の箪笥に隠れているのを、若い女の両親が発見するというスキャンダラスな様子が描写されています。

▲《かんぬき》と《羊飼いの礼拝》が展示されている「道徳的な愛」のセクション

 これら《かんぬき》、《箪笥》、《契約》の版画の3作品は、ひとつの物語の流れとなっており、それぞれ「過ち」、「驚く恋人たち」、「内縁関係の適正化」と、小説の各章を読み進めるようにステップを踏んでいます。過ちを犯した男女も、最後には正式に結婚をすることで後ろめたさはなくなるという《かんぬき》の絵画への訂正の意味が込められているのです。18世紀末の革命期のフランスでは、こうして放蕩者の愛から脱却し、道徳的な愛へと移り変わる劇的な社会の思想の変化が起こっていたのでした。

[FIN]

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Update : 2015.12.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)ページトップへ

恋するフラゴナール展―粋人と放蕩者

会期
2015年9月16日(水)〜
2016年1月24日(日)
会場
リュクサンブール美術館
19 rue de Vaugirard, 75006 Paris
Tel
+33(0)40 13 62 00
E-Mail
http://museeduluxembourg.fr/contact
URL
http://museeduluxembourg.fr/
開館時間
10:00-19:00
月曜日、金曜日:10:00-21:30
12月24日、12月31日、1月1日:10:00-18:00
休館日
12月25日
入館料
一般:12ユーロ
割引:7.5ユーロ
アクセス
地下鉄4番線St Sulpice駅から徒歩6分、10番線Mabillon駅から徒歩7分
※この情報は2015年12月更新時のものです。
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