Dossier special - 海外の特集

  • 1.館長からのメッセージが届きました!
  • 2.医学史博物館の魅力
  • 3.美術史的コレクションへの誘い

医学史博物館

医学史博物館の魅力

博物館の歴史

▲アンドレ・ブルイエ《サルペトリエールでのシャルコーの臨床講義》(1887年)

 パリ左岸のカルチエ・ラタンの端、医学校通り(Rue de l’École de Médecine)と名付けられた通りの由来となっているパリ・デカルト大学の構内に医学史博物館はあります。オデオン駅を出てすぐのパリ・デカルト大学は、現在は医学部を中心とした学部が設置されており、若き医学生が集まるインテリジェンスな雰囲気の校内2階に博物館は位置しています。エレベーターを降りると、アンドレ・ブルイエによって描かれた大きな絵画が出迎えてくれます。1887年に行なわれた、神経疾患の患者のための臨床授業の模様を描いたこの絵画の中央には、サルペトリエール病院で臨床神経学の研究に身を投じたジャン=マルタン・シャルコー医師が描かれています。その周囲にはピガールやウードンといった彫刻家による、医学の発展に貢献した著名な医師たちの胸像が鎮座し、階段を上がって医学史博物館へと進みます。

 ここに展示されている多くのコレクションは、1769年に建築家ジャック・ゴンドワンによってこの地に建てられた王立外科アカデミー内の部屋に収められていました。絵画や版画、外科手術に関する辞書や医療器具など、ジョルジュ・ラファイ学長のコレクションを主軸に、個人からの寄贈を受け、世界でも有数の医療器具コレクションを誇っています。

 医学史博物館がオープンしたのは1954年。90年代に火災によって一時閉鎖されましたが、より開放的な空間にリニューアルされ、医学の歴史を物語る博物館は、医学を志す学生や医療関係者だけでなく、パリ市民や世界中の旅行者などに半世紀以上も親しまれています。

展示室

 館内の展示空間は、奥行きが25mある大きな一室で構成されています。正面奥の壁には15世紀オランダで描かれた聖アンヌの祭壇画が掲げられ、天井からの自然光に照らされた明るい空間の左右の壁には、古代の医療器具や、近代のさまざまな分野で使用された器具がぐるりと陳列されています。展示室中央には、コレクションのなかでもとりわけ貴重な医療器具がクローズアップされて展示されています。

▲医学史博物館の展示室

 この博物館で最も古いものは、古代エジプト時代のメスをはじめとする青銅製の外科手術道具。エジプトに赴任していたクロ・ベイ外科医によって19世紀にコレクションに加えられました。いまでいう眼科医によって、白内障の治療が行なわれていたというガリア時代の点眼薬の収納箱も展示されています。箱には処方箋のように、点眼薬の名前、使い方、医師のサインが刻印されているのも見逃せません。

 ヒポクラテスによって紀元前に確立した医学は、古代ローマ帝国滅亡後、修道院で聖職者が執り行なうものとなりました。尿の様子によって病気を診断し、神への祈りによって健康がもたらされると考えられていた時代には、外科医と理髪師には区別がありませんでした。しかし15世紀の初めにパリ医学校で解剖が行なわれると、外科技術も発展の一途をたどります。17世紀末に痔瘻に悩んだルイ14世の手術が成功すると、外科医の地位はますます上がりました。

▲産科器具の展示ケース、鉗子分娩用の器具など

 外科、泌尿器科、産科などさまざまな診療科に分化した19世紀以降の、膀胱結石除去のための器具、分娩台や分娩の際に使われる器具、古代から近代までの哺乳瓶、手術用のメス一式、麻酔の器具、消毒器具などの豊富なコレクションも壁面のスペースに展示されています。

展示室中央の展示

▲ルイ14世の主治医シャルル=フランソワ・フェリックス医師の痔瘻治療の器具(17世紀)

 中央には、コレクションのなかでもユニークな作品が展示されています。特筆すべきは、1686年11月、ルイ14世の痔瘻の手術に使用されたシャルル=フランソワ・フェリックス医師の器具。ヴェルサイユ宮殿の展示にもしばしば貸し出される、とても貴重な作品です。

▲フェリス・フォンタナによる木製の人体解剖模型(18世紀)

 会場奥にはナポレオン・ボナパルトが注文したという木製の人体解剖模型が鎮座しています。神経や筋肉の細部まで正確に再現された模型は、2,000の部品からなるすべての臓器を取り出すことができます。トスカーナ地方のフェリス・フォンタナは、当時医療人体模型の制作者として名高く、発注から納入までかなり時間がかかったといわれています。こちらの模型は木製ですが、納入された頃にはロウ製の模型が主流となり、実際にはあまり使用されませんでした。この保存状態の良い希少な作品は、美術史的にも医学史的にも注目すべきコレクションのひとつとなっています。

 ほかには、17世紀にオランダの日本研究者の大家が日本から持ち帰ったという、ツボや経絡を示した日本の小さな人体模型や、セントヘレナ島で死去したナポレオンの遺体を解剖したときのアントマルキ医師のメスなど、歴史を物語る重要な作品が多数展示されています。

▲鍼灸のツボや経絡が記された模型(日本製、17世紀)

▲アントマルキ医師の解剖セット(19世紀)

次ページでは、医学史博物館の美術史的コレクションをご紹介します。>>

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Update : 2016.1.5 文・写真 : 栗栖智美(Tomomi Kurisu)
パリ在住。東京芸術大学美術学部芸術学科、
フランス国立東洋言語文化研究所卒。通訳、コーディネーター。
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医学史博物館

所在地
12 Rue de l'École de Médecine, 75006 Paris
TEL
+01 76 53 16 93
FAX
+01 76 53 18 92
E-Mail
clin@parisdescartes.fr
URL
http://www.parisdescartes.fr/CULTURE/Musee-d-Histoire-de-la-Medecine
開館時間
14:00〜17:30
休館日
木曜日、日曜日、祝日
入場料
一般:3.5ユーロ/学生:2.5ユーロ
アクセス
メトロ4番線Odéon駅下車徒歩2分
※この情報は2016年1月更新時のものです。
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