19世紀中頃、パリ万博を目前に空前のパリ旅行ブームがありました。トゥールやナントをはじめフランス中の人々が降り立ったのがオーステルリッツ駅。パリの玄関口であったこの国鉄駅とセーヌ河に隣接するパリ植物園は、今も昔もパリ屈指の自然に囲まれた人々の憩いの場となっています。と同時に、世界有数の自然科学の研究機関のひとつで、園内には生物学、比較解剖学、鉱物学、動物学、植物学などのギャラリーと、温室、動物園、植物園、図書館などの研究施設が一般公開されています。 1626年に王立薬草園として建設され、1793年より国立自然史博物館という名のもと親しまれてきたパリ植物園ですが、施設の老朽化に伴い、近年、改装が進んでいます。今回は、ここ数年でリニューアルオープンした鉱物学と地質学のギャラリー(2014年)、温室(2010年)、植物学ギャラリー(2013年)の3つの施設をご紹介しましょう。
歴史的建造物に居を構えた鉱物学と地質学のギャラリーは、1837年、図書館と講堂、研究所を備えて開館。施設の老朽化により10年間閉館していましたが、2014年末よりその展示面積の一部をギャラリーとして一般公開しています。
250uの展示室は、中央にそれぞれが何トンもの重さの巨大クリスタルを18個陳列し、その周りを8つのテーマに分けたコーナーがぐるりと囲んでいます。最初の4つの部屋は鉱石がどのようにして作られるのか、どのような化学構造が形や色を決めるのか、光の屈折によって異なる鉱石のさまざまな顔など、鉱石そのものにクローズアップ。ラスコーの壁画や中世の細密画、アンドレア・マンテーニャの作品に使われた顔料も展示されています。幾何学的な結晶や美しい色のバリエーション、蓄光する鉱石など鉱物の神秘を目の当たりにすることができます。
後半の4つのコーナーでは、芸術的な研磨を施した宝飾品のコレクションや、研究に貢献した鉱物学者やコレクターの紹介、火星や月から飛来した隕石のコレクションが展示されています。なかでも、ルイ14世やマリー・テレーズ、マリー・アントワネットが所有していたサファイヤやクリスタル、トパーズなどをあしらった宝飾品の王室コレクションはまばゆい輝きを放ち、巨大な黒大理石のテーブルに鳥や花々などのモチーフをラピスラズリ、アガット、アメシスト、真珠などではめ込んだ息をのむほど精緻なマルケトリー作品は必見です。また、18世紀後半までは色別でしか分類されていなかった鉱石ですが、19世紀初頭、初めて化学的構造による鉱石の分類を発明したルネ・ジュスト・アユイのエメラルドは、小さいけれど鉱物学に歴史的な一石を投じた貴重な資料です。
ここで展示されているのは所蔵品の3分の1にすぎず、大きさ、色、形、透明度どれをとっても印象深い巨大クリスタルは、近年ブラジル政府から寄贈されたものも含め80個を収蔵し、ブルボン王朝の宝飾コレクション、王侯貴族や科学者、僧侶、コレクターなどが世界中から集めた鉱石コレクションなどを合わせると、46万点にのぼる鉱物を所蔵しています。
鉱石や宝石の膨大な収蔵品を科学的に分類、研究しているのがこのギャラリーの最大の特徴で、気の遠くなるような年月を経て形成される鉱石のロマンをたっぷりと堪能することができます。科学的、芸術的、歴史的に重要な鉱物コレクションを最新の映像技術を用いて展示しており、石油会社トタル社のメセナやコレクターの寄贈によって、今後も多くの鉱石がコレクションに加わることが予想され、鉱物学業界からも注目されている鉱物学と地質学のギャラリー。まだ環境が整わないため未公開の展示室もあり、収蔵庫に眠る何十万もの鉱石の新たな展示が期待されます。
次ページでは、温室と植物学ギャラリーについてご紹介します。>>
Update : 2016.3.1 文・写真 : 栗栖智美(Tomomi Kurisu)
パリ在住。東京芸術大学美術学部芸術学科、
フランス国立東洋言語文化研究所卒。通訳、コーディネーター。
*情報はMMMwebサイト更新時のものです。予告なく変更となる場合がございます。詳細は観光局ホームページ等でご確認いただくか、MMMにご来館の上おたずねください。