次にご紹介するのは、美しい建築が目を引く温室。ブルボン王朝所有のオレンジの木を霜から守るために作られたオランジュリーに起源を持つ温室は、1834年に英国キューガーデンを参考に、当時の最新建築素材である鉄とガラスを用い、建築家シャルル・ロオ・ド・フリュリによって建て直されました。
水蒸気で温度や湿度を調節したこの温室は、建設当時、近代温室の典型として世界一の規模を誇り、現在は入り口から3番目の温室であるニューカレドニア温室として現存しています。さらに1930年にルネ・ベルジェによって丸みを帯びた屋根を持つアールデコ様式の大温室も増設されました。
こちらは、熱帯雨林、砂漠地帯、ニューカレドニアの気候、温室植物の歴史というテーマに分かれた4つの温室から構成されています。
750uの熱帯雨林の大温室は常時22℃に保たれ、バナナやカカオ、コーヒー、コショウの木、イランイランの花などが植えられ、沼地も再現されています。鬱蒼と繁る熱帯雨林の植物は16mの高さの天井に達するものもあり、3階建ての洞窟を模した展望台から全体を見渡すと、まるでジャングルにいるかのように思えてきます。
同じ大温室の外側に割り当てられているのが、砂漠地帯のサボテンやアロエなどが植えられた展示室。太陽の熱から身を守り、水を貯えるために太くなった幹や根など、アメリカとメキシコ、アンデス地方、北アフリカ、マダガスカルなどの砂漠乾燥地帯に自生する植物の、熱帯雨林の植物とは異なる独自の進化を遂げた植物を見学することができます。
次はニューカレドニア温室。湿地の森、絶滅危機にある乾燥の森、沼地、熱帯草原、マングローブの林など小さな島の5つの異なる土壌を再現。ニューカレドニア原産のフトモモ科のニアウリは、アロマテラピーでもおなじみの植物で、その特徴的な香りを嗅ぎながら鑑賞できます。ニューカレドニア周辺に自生する植物は独特で、こういった温室では滅多にお目にかかれない珍しいものばかりだそうです。
最後の温室は、陸上植物の進化をたどる植物の歴史を展示しています。藻類が陸上へ上がり、苔類からシダ類、裸子植物から種子植物へと進化した5億年の植物進化史を見学することができます。枯れた木に鉱物が侵食して巨大な鉱石となったものや、太古のシダ類の化石など珍しい展示も見逃せません。
最後にご紹介するのが、図書館を併設した植物学ギャラリー。植物学ギャラリーのリフォームと同時に始められたのが植物標本の電子化プロジェクト。未登録の標本を集め、既存の標本を修復、再分類、そして電子化するという作業を、1カ月に20万枚のスピードで進めています。所蔵する全800万の植物標本の電子化編纂プロジェクトは、ニューカレドニア、マダガスカル、東南アジアなど世界中の植物を網羅することを目標とし、研究者以外の一般人もこのデータベースにアクセスできるようになるといいます。「les herbonautes」のウェブサイト(herbonautes.mnhn.fr)にアクセスすれば、このプロジェクトに協力することもできます。過去に集められた植物標本とラベルを見て、採取された国や地域、年代、採取した人物などを読み取り、記録していく作業です。何万人もの参加者に協力してもらいながら、ひとつの植物標本を多角的に分析、記録していくため、植物のことをあまり知らない人も勉強しながら協力することができるのです。
一方、モダンな内装にリニューアルしたギャラリーの常設展は、一般の人に分かりやすく植物の世界や植物学者の仕事を伝える、小ぶりですが分かりやすい展示です。例えば、植物をどのような科で分類しているのか、どんな特徴があるのか、植物学者が世界の秘境で新植物を発見する際の装備や、採取の模様を伝えるビデオや写真、世界中から集められた珍しい植物、簡易押し葉標本の作り方、植物が人間社会にどのように使用されてきたかなど、図や標本、実際の植物などをふんだんに使い、ていねいに展示しています。 植物学や植物分類学というと、実際にどんなことをしているのか未知の部分が多い分野ですが、この展示を見学すると、庭に生える雑草でさえも興味深い研究対象であることが分かり、植物という存在が身近に感じられます。
植物園には、ほかにも季節ごとに姿を変える植物庭園や、古生物学と比較解剖学のギャラリー、進化の大ギャラリー、動物園、パリ植物園の歴史ギャラリーなど、見どころがたくさんあります。ここで働く1,800人のスタッフが日々、研究を重ね、植物、動物、鉱物を入念に手入れし、生ものである「作品」の維持と保存、教育普及活動に勤しんでいます。春夏秋冬、さまざまな顔を見せる生物の姿をぜひ堪能しに来てください。
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Update : 2016.3.1 文・写真 : 栗栖智美(Tomomi Kurisu)
パリ在住。東京芸術大学美術学部芸術学科、
フランス国立東洋言語文化研究所卒。通訳、コーディネーター。
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