本展の見どころの一つは、まるでアミューズメント・パークのような空間デザインにあります。まず来場者を迎えてくれるのは、ルーヴル美術館を代表する《サモトラケのニケ》の原寸大レプリカ。まるで、漫画の世界から飛び立とうとしているかのようなニケのダイナミックなインスタレーションは、これから始まる展覧会への期待感を否が応でも盛り上げてくれます。また展示室を移動するたびに、それぞれの作家の世界観にぴたりと寄り添った、さまざまな仕掛けが来場者を楽しませてくれます。
絵と言葉が描かれたコマをつなげて物語を紡いでいくバンド・デシネや日本のマンガ。これは1830年代にスイスの画家ロドルフ・テプフェール(Rodolphe Topffer/1799-1846)が“発明”した「コママンガ」に端を発しています。しかし、お国柄やその歴史の違いは、如実にその表現や形式に投影されています。たとえば、マンガ文化が日常の生活に浸透している日本では、マンガはゴロリとソファーに横になって読んだり、電車の中、待ち合わせの喫茶店など、さまざまな場所で読まれています。しかし、フランスでは、少し様子が違うようで――。「へぇ!」「びっくり!」「そうなんだ!」といった感想がたくさん飛び出すその違いを、ぜひ会場で確かめてみてください。
2003年にスタートした「ルーヴル美術館BDプロジェクト」の最初の作品である『氷河期』ももちろん本展には出品されています。この作品の成功により、「BDプロジェクト」は勢いをつけて走り出しました。作者ニコラ・ド・クレシー(Nicolas de Crécy/1966-)は、フランスのリヨン生まれの作家。日本のマンガ誌にも作品を連載するなど、フランスはもちろん日本でも知られています。『氷河期』は、現代の文明が失われて久しいはるか遠い未来、とある考古学調査団が調査旅行中に、偶然、巨大な建築物を発見するところから物語は始まります。その建築物こそ、なんとルーヴル美術館だったのです……。この記念碑的な物語の手描き作品20点は、氷の世界を表現した展示室で楽しむことができます。
本展には「BDプロジェクト」の発足間もない頃から参加している『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの生みの親、荒木飛呂彦(Hirohiko Araki/1960-)氏、谷口ジロー(Jiro Taniguchi/1947-)氏、松本大洋(Taiyou Matsumoto/1967-)氏をはじめ、本展のために短編作品を描き下ろした、五十嵐大介(Daisuke Igarashi/1969-)氏、坂本眞一(Shinichi Sakamoto/1972-)氏、寺田克也(Katsuya Terada/1963-)氏、ヤマザキマリ(Mari Yamazaki/1967-)氏の7人の日本人作家の作品が出品されています。そのすべてがルーヴル美術館をテーマにした物語です。貴重な手描き原画や制作風景を収めた特別映像はもちろん、本展のための描き下ろし作品は全点展示し、会場で作品を読み切ることができます。
手描きの原画などが並ぶ漫画の世界の合間には、ルーヴル美術館のハイライトとなる名作や名所を写真や映像などで視覚的に知ることのできる「ルーヴル美術館『9つの名作』と『9つの名所』」や、スケッチやネーム、下絵など貴重な資料を100点以上も集めた「作家たちのアトリエ」など、趣向を凝らした展示も行われています。「作家たちのアトリエ」コーナーでは、緻密なデジタル作品を拡大して見ることができるタッチパネル式のモニター「みどころルーペ」が設置され、異なる角度からより深く作品世界を楽しむことができます。
東京会場は9月下旬までです。お見逃しなく。
12月に大阪、その後福岡、名古屋に巡回します。
MMM 3F アートスペースでは、バンド・デシネ(BD)特集を開催中です。
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