Dossier special - 海外の特集

  • 1.静物と肖像の巨匠アンリ・ファンタン=ラトゥール
  • 2.傑出した観察眼によるリアリズム
  • 3.リアリズムからイマジネーションの世界へ

「ファンタン=ラトゥール―鋭敏な感性」展

リアリズムからイマジネーションの世界へ

グルノーブル美術館に所蔵されるファンタンの写真コレクション

 展覧会の見どころのひとつが、今回を機に本格的に研究のなされたファンタンの写真コレクションです。ファンタンの死後、同様に画家であった妻ヴィクトリアによって、彼の故郷であるグルノーブルの美術館に彼の作品関連の遺品が寄贈されました。その中に含まれていたのが、本展で紹介されている膨大な量の裸婦の写真コレクションや、それらをもとにした素描の数々です。写真と素描を照らし合わせた展示からも、写真の裸婦がファンタンの作品の裸婦像の直接的な手本になっていたことは明らかです。では実際のヌードモデルを使わずに写真の裸婦を描いていた理由はなんだったのでしょうか。当時はモデルを見つけることが容易でなかったこと、またファンタンの恥じらいや、気難しい性格が関係していたことも想像されます。いずれにせよ裸婦の写真がファンタンにとって、もっとも合理的な手本であったことは間違いなさそうです。

▲アンリ・ファンタン=ラトゥール《裸婦の習作》1872年
オルセー美術館蔵 
©Rmn-Grand Palais (musée d’Orsay) / Photo Hervé Lewandowski

▲裸婦の写真コレクションの展示風景

音楽への情熱が導いたファンタンのイマジネーションの世界

▲アンリ・ファンタン=ラトゥール《記念日》1876年
グルノーブル美術館蔵 
©Musée de Grenoble

 リアリズムの世界に身を捧げていたファンタンも、キャリアの後半にさしかかると、その関心をしだいにイマジネーションの世界へと注ぐようになります。ファンタンのイマジネーションを掻き立てたのは、彼と同時代に活躍したワーグナー(Richard Wagner/1813-1883)や、シューマン(Robert Schumann/1810-1856)、ベルリオーズ(Hector Berlioz/1803-1869)などの音楽作品でした。彼らの生み出す音楽に夢中になったファンタンは、古代や神話の世界からインスピレーションを得ながら、その世界観を惜しみなくカンヴァス上に表現しました。
 本展ではベルリオーズへの讃辞をテーマにした作品《記念日》をクローズアップし、関連の版画や素描とともにファンタンの画業の転機を見つめ直しています。

▲アンリ・ファンタン=ラトゥール《ローエングリンの前奏曲》1892年
個人蔵 
©collection particulière

ファンタンは1876年に描かれたこの作品で、リアリズムとイマジネーションという本来対立するふたつのテーマを調和させることを試みました。この作品はサロンでは期待したほどの評価を得るに至りませんでしたが、ファンタンにとっては自身の新たなページを開く重要な作品となりました。
 1890年以降、ファンタンがサロンに出品するのは、イマジネーションの世界を描いた作品に限られるようになります。ファンタンは描くテーマだけでなく、構図や色彩、また筆のタッチに至るまで表現スタイルを一変させました。キャリアの終盤、あたかもリアリズムからの反動のように、理想化された裸婦やニンフの舞う詩的なイマジネーションの世界に没頭したのです。

▲理想化された裸婦やニンフが描かれたファンタンのキャリア終盤の作品の展示

[FIN]

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Update : 2016.11.1 文・写真 : 増田葉子(Yoko Masuda)ページトップへ

「ファンタン=ラトゥール−鋭敏な感性」展

会期
2016年9月14日(水)
〜2017年2月12日(日)
所在地
リュクサンブール美術館
Musée du Luxembourg
19 rue de Vaugirard, 75006 Paris
TEL
+33(0)40 13 62 00
URL
http://museeduluxembourg.fr/
開館時間
10:30-19:00
金曜日:10:30-22:00
12月24日、12月31日:
10:30-18:00
休館日
12月25日
入場料
一般:12ユーロ
割引:8.5ユーロ
アクセス
地下鉄4番線St Sulpice駅から徒歩6分、10番線Mabillon駅から徒歩7分
※この情報は2016年11月更新時のものです。
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