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P・セザンヌ「サント・ヴィクトワール山」
© Photo
RMN-H.Lewandowski/digital file by DNPAC |
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「特にドラマのない人生です」セザンヌのプロフィールを紹介するにあたって、本江先生はふとそんな言葉をもらされました。裕福な家庭に育ち、人生の大半を故郷のプロヴァンスで過ごし、死の直前まで黙々と絵を描いたセザンヌ。しかし、年譜が表す人生の平坦さからは想像もつかないほどの力が、その画面にはみなぎっています。その源泉は、セザンヌの内に秘められた情念だと先生は話されます。彼は自らが抱く幻影や欲望を、強引なまでの力で画面に封じ込めていったのです。
作品を見ながら先生のお話を伺っていると、その時代ごとの作品の魅力と画風の変遷がよく分かります。物質そのものの魅力を伝える初期の静物画、画家の情念を強く感じさせる小品、自らの理想の象徴だったサント・ヴィクトワール山の連作。水平・垂直のとれた安定した画面から「不安定の安定」とでもいえるような独自の構図へ──。セザンヌは、古典的な美意識を抜け出して、地面から沸き立つような自然のダイナミズムを捉えつつ抽象へと向かい、19世紀絵画から20世紀絵画への橋渡しをしたのです。静謐さのなかに力強い存在感を内包するセザンヌの作品。その源が先生のお話によってひとつずつ解き明かされ、セザンヌの魅力をよりいっそう理解できたサロンとなりました。次回は、そんなセザンヌを敬愛して止まなかった画家ゴーギャンの登場です。 |