神戸で9月に幕を開けた「オルセー美術館展-19世紀 芸術家たちの楽園」展。日本におけるオルセー美術館展シリーズの集大成ともいえる本展には、大きな注目が集まっています。来月の東京展開幕も待ち遠しいばかり。今回のサロン講座は、過去のオルセー展にも深く関わってこられ、今回の展覧会では、日本側のコミッショナーを務められている美術史家の高橋明也氏を講師としてお招きしています。
第1回のテーマは「オルセー美術館の誕生」。もっとも近くでオルセーをご覧になってこられた高橋先生だからこその、興味深いお話がたくさん飛び出しました。
©Musée d'Orsay
 「オルセーは私にとって第2のホームグラウンドのような場所です」とおっしゃる高橋先生は、1984年〜1986年までの約2年間、文部省の在外研究員としてオルセー美術館の開館準備室に在籍されていました。間近でオルセー開館までの日々をつぶさにご覧になってきた高橋先生は、当時ご自身でカメラに収めた写真などを使って、オルセー美術館誕生の歴史にとどまらず、フランスと日本における美術館のあり方の違いなど、多岐にわたるお話をしてくださいました。
「フランスには、例えば建築をとってみても、古代から中世、そして19世紀といったあらゆる時代の遺構が残っています。最近の若者たちは少しずつ変わってきてはいますが、ヨーロッパには元来、古典的な教養を受け入れ、クラシカルなものを重要視する土壌があるためでしょう」。オルセー美術館もまた、こうした古きものを尊ぶ精神のうえに誕生しました。すでに広く知られている通り、オルセー美術館の建物には、1900年のパリ万博の際に建てられた駅舎が使われています。
「オルセー駅はパリの終着駅として建てられました。当時、この駅はさらに市内まで地下線路を引いていたのですが、この地下線路が効率的ではなかったのですね。1930年代には駅としての役割を終えてしまいます。その後はオークションハウスになったこともありますし、オーソン・ウェルズの映画『審判』の映画ロケに使われたこともあります。また、アウシュビッツの収容所から送られたユダヤ人が解放されたのも、このオルセー駅でした。」こうして駅としての役割を終えたオルセーはその後、さまざまな議論の末に美術館として蘇ることになります。
 そして現在、“古建築再生・活用のスタンダードを造った存在”として位置づけられているオルセーには昨年は300万人もの人々が訪れたとのこと。その8割が外国人だそうです。
「オルセーの所蔵品は国内より国外でうけるものが多いですね。とくに印象派を通して西洋美術と出会った日本人にとっては、たいへん馴染みのある作品が多くあると思います」と高橋先生。さらに今回、最終章を迎える日本におけるオルセー美術館展は、昨今ではなかなか見られない上質なものであることにも言及されました。
「今から10年前に開催された『モデルニテ:パリ・近代の誕生』、その3年後に開催された『19世紀の夢と現実』、そして今回の『19世紀 芸術家たちの楽園』まで、構成はもちろん内装やカタログ制作までほぼ同じスタッフが携わっています。一貫性をもったテーマを据えた展覧会は、とてもユニークな作り方であると同時に、たいへん完成度の高いものです」。展覧会は作品を並べるだけでなく、そこにどんな味付けをしているかが重要と語る高橋先生。今後のサロン講座では、そんな展覧会の内容にさらに肉薄していただく予定です。
©Musée d'Orsay
サロン・デ・ミュゼ・ド・フランス「オルセー美術館展のすべてを楽しむ」は、全4回のサロン講座と1回の展覧会レクチャーを予定しています。次回のテーマは「オルセーのコレクションの魅力」。ぜひ次回のサロン講座にもご期待ください。
同館誕生20周年を記念し、オルセー美術館との連携により公開しているMMFサイト内特集ページもぜひご覧ください。
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