サロン・デ・ミュゼ・ド・フランス 第3回 ドラクロワ(1798-1863)
人間の本質をえぐり出したロマン主義の巨匠ドラクロワ鑑賞者の感性に訴えかけるその作品の魅力を解き明かす
民衆を導く自由の女神
© Photo RMN / Hervé Lewandowski / digital file by DNPACC
「美術史の教科書でよくいわれるように、ロマン主義は新古典主義からバトンを受けて走り出したのではなく、実際には同時並行的に二つの流れは存在しました。」
まず千足先生はフランス画壇における当時の状況を簡単に説明くださったのち、いよいよドラクロワの本質へと迫っていきます。ドラクロワはすでに巨匠であったアングルや、当時、王道とされていた新古典主義をつねにライバル視していました。それは、先生が紹介されたドラクロワの言葉からもよく分かります。
“絵というものは画家と見る人の心の架け橋に他ならない。冷たい正確さは芸術ではない……”

「ここでドラクロワは“冷たい正確さ”という表現で新古典主義、そしてアングルのことを暗に批判しています。この言葉からは人の心情や感情、そして想像力に訴えかけるロマン主義の絵画と、理知的ではあるけれど、独創性にはあまり重きを置かなかった新古典主義の違いがよく分かります。」ロマン主義という言葉だけでは、なかなかつかみにくかったその実像が、ドラクロワの言葉を引用することによって、分かりやすく解き明かされていきます。
そしてその理解はさらに作品を見ていくことで、より深められました。代表作のひとつ『ダンテの小舟』でドラクロワは、地獄の川から逃れようとする人々を迫力ある描写でとらえています。「決して美しい絵ではありませんが、画家は人間の情念や醜さをみごとに描き切っています。これがロマン主義の絵画です。また、人々の身体に描かれた水滴を拡大してみると、三原色に近い色を使っていることが分かるでしょう。この描写からは次の時代のさきがけとなる、ドラクロワの色に対する深い関心が見てとれます。」こうした細部描写の説明をうかがうと、美術館で実際に作品を前にするのが待ち遠しくなります。また有名な『民衆を導く自由の女神』や『キヨス島の虐殺』などの作品に加え、まるで印象派を彷彿とさせるかのようなタッチでノルマンディの海を描いた作品や、風景の前景に美しい花を配した一枚など、自然のみずみずしさをみごとにとらえた作品もスライドで紹介されました。時代背景からその芸術観、そして技法まで、余すところなくドラクロワの魅力をお話いただいた1時間半。講座後、ホワイエで先生と談笑されている方からは、「ドラクロワがとても好きになりました!」という声もあがったほどでした。

ルーヴル美術館を飾る3人の巨匠それぞれの個性を解き明かす今回のシリーズ講座。次回美術館を訪れる際に参考となる視点をたくさん提示いただいた充実の内容となりました。
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